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◇ 塩野七生「ローマ人の物語 Ⅵ パクス・ロマーナ」

塩野さんは最愛の(多分)ユリウス・カエサルを4巻と5巻の分量で書いた。
6巻はほぼアウグストゥスについて。でも塩野さんも冒頭で書いているように、
アウグストゥスは人間的な部分が少ない――わけではないんだろうけど、
まあそりゃカエサルに比べたら、書くことは相当少ない。

カエサルという稀代のカリスマを突然失った古代ローマが、いったいいかにして
帝政に移行したのか、という話。
なので、内容はかなり政策寄り。というよりほぼ政策について。

でも面白いですけどね。半分くらいまで読んで、そこから1週間以上間が空いたから、
前半の内容はほぼ忘れているが――そして今となっては後半の内容もほぼ忘れているが、
いいのだ、読んでいる間に「ふむふむ、なるほど」と納得出来て面白ければ。
内容を覚えてなければ読んでいる意味がないというわけではない。

だがわたしは、塩野さんが書いてないことがむしろ一番印象に残った。
書いてないわけじゃないけれど、断罪して欲しいところだった。

アウグストゥスの結婚観はいったいどうなっていたのだ、という呆れ。
わかりやすく説明する自信はないが、この辺を調べておく。
まずアウグストゥス自身の出自は大したことない。

父は騎士階級出身。母がカエサルの姪。カエサル自身は貴族階級のユリウス一門、
血筋・権力・財力申し分ない――というレベルではない貴族階級(もっと名門がいる)だが
貴族階級は貴族階級。騎士階級はそれより下。(下なのかどうか一考の余地あり)

騎士というと非常に武張ったネーミングだが、時代による変遷もあり、
カエサルの時代は多分、武力一辺倒というよりは元老院議員資格がない富裕層。
という方が実情なんだろうと思う。……などといいつつ、わたしは詳細をほとんど知らないので
自分の妄想でしかないことに気づいた。妄想だと思ってお聞きください。

アウグストゥス自身は結婚歴3回。1人目、2人目の妻は政略結婚。のちに離婚。
愛情はなかったようだ。2人目の妻との間に一女あり。
3人目の妻がリウィア。他人の妻だったリウィアにアウグストゥスが一目ぼれし、
夫と強引に別れさせ、その夫を介添人にしてリウィアと結婚式を挙げた。
というエピソードが有名。

まあね。これもひどい話だと思うけど、まあ欠点の少なく見えるアウグストゥスの、
数少ない暴君エピソードとしては受け入れられる。死ぬまでリウィアを愛し続けたらしいし。
運命の出会いだったんだね、ときれいごとにしてしまえる。

しかし継子(のような立場)と、実の娘の婚姻関係が暴君すぎるのよねえ……

塩野さんによれば、アウグストゥスは自分の子孫を残すこと、後継者にすることに
非常に執着した人らしい。そういう人にありがちなことに、結局実子は娘のユリアだけ
だったんだけど。

Wikiを参照して婚姻関係を整理すると――

まずは甥のマルケルスを娘ユリアと結婚させ後継者を得ようとする。しかしマルケルス夭折。
次に自分の右腕、同世代だったアグリッパをユリアと再婚させる。
文字通り親子ほど年の違う夫婦。しかもアグリッパはすでに妻があった身、
それを離婚させて娘と結婚させる。しかし無事にこの夫婦の間には三男二女が生まれる。

まあこの時点で孫に男子三人を得たのだからアウグストゥスは安心しただろう。
だが、男子三人のうち上の二人は夭折。末子は素行不良で追放。
追放だけならまだしも、狂気を疑われ、のちには幽閉。
アウグストゥスの死の直後、処刑。
この経緯にはアウグストゥスの最愛の妻、リウィアの暗躍があったという噂もある。

この時点で直系男子の孫はいない。次の手としてアウグストゥスは、再度娘ユリアを
再婚させる。今度の相手は妻・リウィアの連れ子の兄の方・ティベリウス。
この結婚が上手く行き、二人の間に男子が生まれれば万々歳というところだったが、
そうは問屋が卸さない。この二人、相当嫌いあっていたそうなんですよ。

娘と連れ子だから、まあ、いうたら同じ家族の子ども。まあ連れ子の方は実父が亡くなるまで
実父の方で養育されていたらしいんだけど、その後は母の元に来たはずだから、
(ここらへんは面倒なので調べませんよー)同時期に住んでいたことはないかもしれないが、
同じ家を実家としていたはず。

でも気が合わないというのは仕方のないことです。
ユリアはのちに男あさりがたたって父に罰せられ、孤島に追放?幽閉されて一生を終わる。
まあ厳格な父だったんだろうし、一人娘ではあっても可愛がられるよりも
厳しく養育されたイメージもあるし、なんだったら父は世界を構築するのに忙しくて
ほっぽっとかれたのかもしれない。年の離れたアグリッパと上手くいったのも
ファザコンが満たされたせいかもしれない。甘えられなかった人なんじゃないでしょうか。

ティベリウスの方も事情がある。ユリアと結婚するにあたって、例によって現在の
婚姻関係を解消させられてるそうなんですが――これが恋女房のようだったんですよね。
ユリアと結婚するために生木を裂かれる離婚。これはトラウマでしょう……
そういう状況でした結婚は、幸せな結婚にはならないんじゃないか。

鬼畜なり、アウグストゥス。

わたしは政略結婚が一概に悪いものだとは思わないけど、とはいえ幸せな結婚を
破壊してまで行なうのは違うだろうといいたいぞ。
歴史上の行動を現代の価値観で断罪するのは控えるべきではある。だがかわいそすぎる。

当然この2人の間には子どもは生まれず。ティベリウスはさまざまな要因により
アウグストゥスとたもとを分かち、ロードス島へ隠棲してしまいます。
政治的にも軍事的にも(ひとまずは)引退。

連れ子の弟の方・大ドルーススの妻は小アントニア。彼女はアウグストゥスの姪。
大ドルーススはアウグストゥスに可愛がられたそうだが、戦場で怪我をし、夭折。
この夫婦に男子2人があって、ようやくアウグストゥスは後継者候補2人を得た。

結局帝位はアウグストゥスから見て、

連れ子のティベリウス
→娘の娘の息子であり、連れ子の息子の息子であるカリグラ
→連れ子の息子のクラウディウス
→娘の娘の娘の息子であり、連れ子の息子の娘のネロ
という風に受け継がれるので、女系にはアウグストゥスの血は一応流れているけれど、
男系はなかったので、彼がこだわった血の継承はほとんど成功していない。

そのために離婚しなければならなかった夫婦は何組もいたことを考えると、
なんだかなあ……と思った。わたしがこの本を読んで一番思ったのはこのへん。

そして、アウグストスの事績はこの1冊でかなりよくわかるけれども、
ひととなりはあんまりわからないですね。そもそも冒頭で、それについては
塩野さんも言及しているけれども。

この強制離婚のこともこの本に書いてなければ全然知らなかった。
あんまりだ、と思ったのでAIに訊いてみた。そしたら、「アウグストス自身は
女性をあさりまくって、特に処女を好んだらしい。妻・リウィアは女衒のような役割を
果たしていたとか」(大意)などという情報が出て来て……なにそれ?聞いたこともない。

またAIは適当なことを言う、とむかつき、ソースは?と訊いたところ、
スエトニウスの「皇帝伝」に書いてあります!と自信満々。

半信半疑で検索した。――たしかに書いてある。
まあスエトニウスが書いたことはゴシップ雑誌並みだ、という意見もあったので、
――塩野さんはゴシップ雑誌の内容を取り上げたくはなかったのかもしれないが、
この話には触れて欲しかったなあと思った。

スエトニウスなんて聞くことは聞く名前じゃない?
紹介した上で、スエトニウスの立場を説明して、誹謗中傷である可能性が高い、と
言ってくれないと、そんな噂があったことも情報としては大事なんだから、
その情報を抜かしたままでいて欲しくはないというか。
却って信頼出来なくなっちゃう。

 

政治的・軍事的な事柄も面白かった。だがこのあたりのことが一番気になった。
――まあこの巻を読んで、一番思ったことがこれだっていうんだから、
塩野さんもいい面の皮だと感じるとは思うが。

 

あとたまたまだが、古代ローマ時代のエジプトの遺跡を映したテレビ番組をちらりと見て、
ローマに支配されたあとで作られたローマ式浴場に「エジプト人は入れてもらえませんでした」
と語るガイド?有識者?がいた。

塩野さんがローマの合理的な支配、同化の合理性をいかに力説しようとも、
それを鵜呑みにしてはいけないなと思った。古代ローマのグローバル化はたしかに
傾向としてはあったのだろうが、精神的になんの軋轢もなく支配が浸透したわけはないのだ。
あまりに賛美しすぎてもいかん。

 

 

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