429ページ、厚めの本だけど、さくさく読めた。判も小さいしね。
内容はまさに伊東豊雄の観察記。
下手に分析しようとしていないので読みやすい。いや、分析をまったくしていないわけではないが、
書き手がそこに集中しすぎてないというか。「伊東豊雄論」ではない。、
その軽さがいい。伊東豊雄の飄々としたイメージに拍車がかかるあっさり具合。
あ、誤解のないように言うが、書かれている内容はけっこう密です。著者、なかなかのお仕事。
いや、それにしても彼は忙しい人だね。
ちょこちょこ「ほ、そうかい」と思う情報があった。
わたしが気になっていた、現在台湾で進められているプロジェクトであるオペラハウスは
元々ゲント市(ベルギー)でのコンペ案に原型があるとか。
ほんの少しそれに触れられた箇所があるのだけれど、それによるとロビーでは、
複数のホールの演奏がどこからともなく漏れ聞こえて来るそうな。
チューブを主体にした、人体内臓部分のように繋がった形状なので。
……うーん。ロビーで音が聞こえるのはまあいいとして、ホール自体の音響は大丈夫か?
その辺は抜かりないと思いたいんだけどなー。
イタリアの家具メーカーが、伊東デザイン「センダイ」という名前の本棚を作っているそうだ。
なぜ「センダイ」かというと、仙台メディアテークの建物としてのデザインを
モチーフに使っているから。
写真にちらっと写っているけど、なるほど。と思う。実際の建物ではチューブ部分は鉄だが、
本棚では木を使い、柱として棚板を支えている。二種類の色の違う木を縦にランダムに
組み合わせ、さらに柱の形や角度を斜めに傾けることで、ふわふわとした不安定なイメージに
なっている。便宜上本棚ということにはなっているけれども、まあ本当のところは飾り棚、
というよりむしろ、「センダイ」自体が飾られるべきものだろう。
これ、実物が伊東豊雄のエキシビに来るんじゃないかな。
仙台メディアテークで「センダイ」を展示するのは面白いと思うのだが。
伊東豊雄建築設計事務所の日常部分も面白い。
今は名をなした(なしつつある)建築家で、伊東の事務所出身者も多い。
仕事の進め方、苦労、伊東と彼らの関わりあい……あまりべったりとは書いていないけれど、
所々のそんなシーンで、人間としての顔が見える。
結局のところ、物を作るのはエゴの部分だから。唯一絶対の解がない領域で複数の人間が動くのは。
文章中では淡々と流れて行くけど、ああいう場所はけっこうきついだろうなあ。
なんかすっかり伊東派になっているようだけど、わたしは本来は伊東豊雄が作るような
ファンタジックな(正しくはファンタスティックな)建物は好きじゃない。
普通の、木とか石とかで箱型の建物を作ってくれる人の方が好みなんだけどね。
しかし使い勝手に勝るものはないのであって。
仙台メディアテークの使い勝手には惚れている。なので、どことなく癪に障りながらも、
ついつい注目してしまう、親しみをもってしまう。複雑。
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