ユリウス・カエサルについて数えきれないくらい読んでいる。
――といっても短ければ半ページくらいの分も含めてだが。
ガリア遠征、三頭政治、ルビコン渡河、内戦、ポンペイウス制圧、クレオパトラとの恋、
独裁者、そして暗殺。そういう流れはまあわかっている。
イタリア書きの塩野さんが集大成として書いた「ローマ人の物語」、
その中でも彼女が一番好きなカエサル。文章としては後編のこの本が500ページ。
こないだ読んだ前編はもう少し短かった気がするが、400ページは余裕で超えるだろう。
一人の人物に900ページ超のボリューム。
他でなかなか読めない部分が多々あって面白い。
特に面白かったのは、カエサル暗殺後の状況が詳しく読めたところですね。
まず、わたしはオクタヴィアヌスは甥だと思っていた。姪孫だったんですね。
記憶が毎回書き変わっている。
そして、子供がいないカエサル(注・クレオパトラとの間に息子はいる)の甥として、
オクタヴィアヌスは自覚的に育てられたのだと思い込んでいた。
同居まではしてなかったかもしれないが、大きな影響は受けたはずだし。
しかしこれが姪孫となると若干話が変わって来る。
この本では、カエサルの死後に遺言状が公開されて初めて後継者に指名されてたことを知る。
しかもその時彼はパルティアへの遠征途上、軍勢と共にギリシア西岸にいた。
この後のオクタヴィアヌスの動きが見事でねえ。
……どう見事だったかは記憶にないが、とにかく見事だったのは印象に残っている。
すぐにローマに帰ったこと。遺言状で相続人に指名されたのであれば、
身の安全は保証されない。
それなのに帰ってカエサルの養子として葬式を挙行したこと。
カエサルのお金をアントニウスが返してくれないので、オクタヴィアヌスは
有力者を訪ねて借金をして、莫大なお金のかかる儀式を行なったこと。
18歳。カエサルを暗殺した人々。アントニウス側の人々。ローマ市民。
どの陣営につくか決めかねている人。――こんな複雑な状況をよく生き抜いたなと。
キケロを手なづけるのも完璧。
当時62歳のキケロにとって18歳は「少年」でしかなく、
それだけに甘くも見たし、キラキラしたお目目で「尊敬しています」と言われれば
油断もしただろう。自分が教え、導いてやろうと思ったかもしれない。
だがこの数年後、アントニウスとの政策の中で、キケロは死刑者の筆頭候補に上げられる。
アントニウスに対して、キケロが度重なる妨害演説をしたことで、
アントニウスが怒り心頭、恨んでいたという理由だそうだが、
それにオクタヴィアヌスは反対してはいない。キケロはまさかと思いながら殺される。
塩野さんのこの本では、キケロはどうも小馬鹿にされているふしがあるなあ。
実際のところはどうなのか、あと8年後くらいに、キケロを、ではなくキケロについて
読んでみよう。
18歳のオクタヴィアヌス。……だが本来であれば、この遺言状はカエサルが病気で死ぬとして
十年後くらいに効力を発揮するはずだった。それであればオクタヴィアヌスは28歳。
若いは若いが後継者としては年齢的に不足はない。
突然降ってわいたカエサル暗殺。天変地異のようなものだ。
それを乗り切ったオクタヴィアヌスは、やはり非凡の者だった。
それをこの段階で(遺言状を書いた一年前の段階で)見抜いていたカエサルも。
暗殺者たちのその後を詳しく書いてくれているのも良い。これもなかなか読めない。
あ、ブルータスが複数いるというのは記憶の片隅に引っかかっているが、
そのうち絶対忘れるので今回書いておこう。
マルクス・ブルータスとデキウス・ブルータス。
マルクスの方が従来言われているブルータスで、母がカエサルの愛人。
塩野さんは何度も何度も「カエサル生涯の愛人と言われたセルヴィーリア」と書いているから、
それは羨ましいせいか?と思うが。
その反発からカエサル暗殺という極端な方向に走ったのかと思っていたが、
そういうことではないらしい。子供のころから高い教育を受け、実際にあちこちの
最高学府で学び、哲学者だったそうだ。そして政治・軍事については無関心。
だが生業としては金融業者をする。哲学者で金融業者……?
その後カエサルの縁故人事で、本当は資格のないはずの属州総督に任命される。
しかも、カエサルを公私ともに憎悪していた叔父・小カトーに同調し、
ポンペイウス派として戦ったファルサルスの会戦の後で。
うーん。人生の筋が通ってない気がする。
でもマルクス・ブルータスは無私の人と思われ、知識と教養に溢れ、カエサル暗殺も
「あのブルータスが起つなら」と仲間に加わった人もいるとある。
実際に首謀者というべき人はカシウスだそうだが、マルクス・ブルータスも
一応信念があって暗殺に連なったらしいなあ。
その時40歳。独裁制に反対する思想……。若気のいたりじゃなかったのか。
デキウス・ブルータスは本来はカエサルの右腕。右腕まではいかないのか?
左腕。あるいは2本目の右手あたり。とにかく相当に重んじられていた人。
当日、カエサルの家までお迎えに行って、ちゃんと陰謀の場まで来るようにお供をした人。
カエサルよりはだいぶ若い。
この人は暗殺後、公表されたカエサルの遺言内容を知って青ざめた人。
オクタヴィアヌスが後継者を万が一辞退した場合、この人が第二後継者に指名されていた。
そこまで自分を買っていてくれたのかと知る。
そんな人を殺してしまったの。この人は。
シェイクスピアの「ジュリアス・シーザー」で有名になった、
「ブルータス、お前もか」はマルクス・ブルータスだと思われていたけれど、
デキウス相手に言ったという説も強いらしい。最近はそっちの方が強い。塩野さんもこっち。
まあ本当は何も言わなかったかもしれないけど。
アントニウスが月桂冠を捧げたというのは歴史的な大チョンボではあると思う。
まあそれがなくてもいずれは弾劾されていただろうと思うが、
時期は劇的に早まったと思うなあ。
――いろいろキッチリ書く塩野さんが、わたしが何十冊も読んで来たなかで
唯一逃げたと思うのが、
カエサル殺害に直接に手をくだしたこれたの人々の動機を追及することも、
あまり意味のないことではないだろうか。個々の真意はどうであれ、この十四人が
カエサルに剣を向けた動機は、王政への移行を阻止し、元老院主導の共和制に
もどすことにあった。
いや、意味はあるから書いてください。と思ったよ。
だが14人の思想と行動は細かく追えない。塩野さんはこのカエサル暗殺の
「三月一五日」を一章立てで書いているのだが、この14人の行動を調べて推測して
……となればそれだけで1年2年かかるだろう。まあ仕方ないよね。
本の内容的にはこれでも200分の1くらいかと思うが、
あと200倍書くことも出来ないのでこのへんにしておきます。
「ローマ人の物語」、まだ5巻かあ……。あと10巻もあると思うのか、
3分の1は終わった!と思うべきなのか。
まあ読んでますよ。楽しく。

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