ちくま文庫の森鴎外全集全14巻のうちの一。収録作品は、
大塩平八郎 堺事件 安井夫人 山椒大夫 魚玄機 じいさんばあさん 最後の一句
高瀬舟 寒山拾得 玉篋両浦嶼 日蓮上人辻説法 仮面
このうち「玉篋両浦嶼」は能のテキスト、謡本の形式で、
「日蓮上人辻説法」は戯曲っぽいが文章がめんどくさいので読まず。
森鴎外は「なんぼか読んだ」という程度の作家。
よく覚えてないが「舞姫」を始めとする初期短編いくつか、
「雁」「興津弥五右衛門の遺書」「澁江抽斎」は読んだ気が……
そして「澁江抽斎」を読んで、おきゃあがれ、森鴎外!と思った。
つまらない。果てしなくつまらない。文学者で「澁江抽斎」を世界最高の文学と推す人が
多数いるようだけど、文学者じゃないわたしはまったく面白くなかったですよ!
ナンデスカ、コレ?
わたしは縁なき衆生だ。と思って森鴎外はそのまんま。多分10年以上前。
いや、そのまんまじゃないな。鴎外の人となりを知ろうとして、子供たちの著作を
ツブしたんだった。森於菟、森茉莉、小堀杏奴、森類、小金井喜美子。
全部ではないかもしれないが、図書館にあった合計10冊内外。
そして思う。鴎外は教祖。そして子供たちは鴎外教の信者たち。
みんな鴎外のことが盲目的に好きで、「パッパはすばらしい!」と言い続けている。
傍から見ると、ちょっと薄気味悪いほどに。(除:森於菟)
そして今回、再度鴎外にチャレンジしてみたんですけどねえ。
「大塩平八郎」を読んで、あまりよく知らない大塩平八郎の事績と鴎外の心情がわかれば
一挙両得と思ってこの巻を選んだのだが……やはりよくわからなかった。
「大塩平八郎」に限ったことではないが、とにかくうすぼんやりした書き方なのよね。
90ページ弱の短編なので、そんなに大塩平八郎のことがわかるはずもないんだけど、
とにかく冒頭は、乱の直前の体制側の浮足立った、ふわふわした対応が語られる。
大塩が乱を起こすという噂が立っているがどう対応したらいいか……と
右往左往している体制側。ああ、これは本人を書かずに周りの様子を書いて事件を
浮かび上がらせるんだな、と思いつつ読んで行ったら、だいぶ経ってから
中途半端なところで本人登場。しかも本人の佇まいは若干描写されるけれども、
一体何を考えているのかは書かれない。
書かない書き方もあるとは思うが、民を救おうとして兵を挙げるんだったら
そういうことも書いて欲しいんだけど……。
ここらへん書かないので、体制側もアホなら大塩側もアホに見えてしまう。
門下生とかも行き当たりばったり感がありすぎなのよね。
戦闘シーンもほぼ書かれず、いいところ何にもなしで敗戦。
散り散りになり、10人くらいに減ったところで、「各々活路を見いだせ」的な話をして。
6人に減って、そのうち1人2人も死んだりして、結局大塩は自分と養子だけになり
奈良に逃げのびる。逃げるならひたすら逃げて置けばいいのに、
なぜか大阪へ戻ってきて出入りの商人の家へ潜伏し、結局そこからバレて捕まる。
そのために匿った商人だって死罪ですよ……
そもそも兵を挙げる時に自邸に火を放って打って出るとか、
味方につかない門弟を血祭りに上げるとか、
いやまあ、それはそうかもしれないけど、やることが迷惑なのよ。
やむに已まれぬ気持ち、とかそこまで追い詰められた心情、とかまったく書かないから。
優柔不断でわが身が可愛い大塩平八郎に見えてしまう。
鴎外は「歴史其儘」がモットーだそうだが、わたしはソレ、キライです……
「安井夫人」は人間味があったからまあまあ良かった。……話は地味だが。
「じいさんばあさん」は前にも読んだな。好き。
その他はねえ。8割書きさして、最後は省略している感じ。物足りない。
その後に解説をつけるくらいなら、本文をもっと書くべきなんじゃないかと思いマス。
小説自体がこういう感じで主観が入ってないので、鴎外の人物像がつかめないんじゃないか。
わたしとしては結論まで書いてもらって、それに対して自分がどう思うかを
イロイロ考えたりしたいんだが、鴎外は素知らぬ顔でふっと離れていく感じ。
傍観者の視点とか、意識的にやっていることだろうけど好きじゃない。
どうも不満が残るなあ。別に作品が嫌いなら嫌いでいいんだけど、
人間的にもっと隠されたものがあると感じて、そこが気になる。
優秀な医者で、栄達した軍人で、至高の位置にいる文学者。
いや、でも彼の内面はどうだったのか。
……そこらへんを知りたいなら、随筆などを読めって話ですよね。
仕方ない、読むか。ちくま文庫の13巻が日記系だなあ。

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