東北歴史博物館は、常設展はかなりいい方だと思うけど、こないだの白隠展はヒドかった。
ヒドかったという言い方もヒドイが、まあアレはモノが今一つ……今三つくらい。
白隠、おそらく悪くないモノは全く悪くないと思うので、三流品を多めに並べるより、せめて二級品をなんぼか、
目玉になり得る一級品を一つ、という構成の方がいいのではないかなあ。
だが今回の特別展は、白隠展とは違うはずだ。入場料はちゃんと相場を取ってるし。
わざわざカンボジアから、てきとーなものを持ってくるということもしないはずだ。
というわけで、「もしかしたらいいかも?」という期待で見に行った。だが……。
そこそこいいもの(中くらいのもの)がどっさり来ている。
――それはいいのだが、量がありすぎ……。
質と量のバランスって大切ですよね。ルーブルみたいに質量ともにどんと来い!というミュージアムなら揺るぎようがないが、
特別展で展示物を並べる場合は。
人間には“飽きる”という精神作用がある。そこを考えないとダメではないか。
カンボジアの古代文明の華であるアンコール様式に向かって美術の流れを緻密に見ていく、という姿勢はマジメで
大変いいことだとは思う。
しかしマジメだからいいかというと、そこんとこがね。
相当興味がある人は、ほほーと思って見るだろうが、カンボジア美術の様式細部に興味がある人ってだいぶ少数派ですよね?
学究的には誠実だと思う。違いをパネルで説明するとかね。がんばった仕事。
しかしそれはあくまでも専門家が考えた並べ方であって、一般人が楽しく見られるという視点は全く欠けていた。
何しろ、パッと見で似たような神像が数十体ですからね。それがずらっと並んでいる。
これがまた驚くほどに同じような物体。押しなべて高さ1メートル前後の立像で、ヴィシュヌやラクシュミーや
パールヴァティーやヤクシャやヤクシーや男神女神。
“1メートル前後の神像”というくくりで出品リストを適当に数えると、ざっと70体くらいある。
70体、似たようなものを延々並べられても……。
70体が、プノン・ダ様式、アンコール・ポレイ様式、サンボール・クレイ・クック様式、プレイ・クメン様式、
プラサート・アンデート様式、コンポン・プレア様式、クレーン様式、プレア・コー様式、バケーン様式、コー・ケー様式、
プレ・ループ様式、バンテアイ・スレイ様式、バプーオン様式、アンコール・ワット様式、バイヨン様式、
これらに分類されて並んでいるんですからね。
……ちょっとやりすぎってもんじゃないでしょうか。
代表的な4つだが5つの様式の特徴を写真付きの一覧表をパネルにしたものがあって、これはわかりやすかった。
だが、そのパネルがあれば、むしろ70体も彫像を並べなくても良さそうなもんでね。
実物を見るのも大事だという意見もあるだろうが、そういう方向で見ちゃうと、実物が単にパネルの確認作業に終わってしまって、
鑑賞にはならないんだよね。
これはねー……。70体、取捨選択して持って来た方が良かったと思うよ。
10分の1とは言わないまでも、数はせいぜい5分の1で良かったんじゃないかなあ。
だってヴィシュヌだろうがラクシュミーだろうが、見た感じあんまり変わらないんだもの。
カンボジア美術を見慣れてないせいで、鑑賞のポイントがあまりわからない。
正直、男神も女神も顔は総じて同じ。
胸が豊満に盛り上がっているかどうかだけが男神と女神の区別。……でも男神の胸もけっこう豊満なんだよなあ。
で、ポーズも同じで、サイズも同じとなると、これは相当な細部を鑑賞して初めて感じる面白さになってくるわけで……
そんな難しいことを一般人に求めないでほしい。というのが正直なところ。
残りの展示は石像と青銅像と陶磁器で、こっちも悪くはないのだがみな似たようなもの、という印象は否めない。
石像のブッダ像の様式がまた、
シー・テップ様式、ドヴァーラヴァティー様式、シュリーヴィジャヤ様式、ロッブリー様式、パガン様式
と来るからね。飽きるさ、それは。
1つ1つを見れば、超一級品ではないにせよ、それなりに見られるのに残念だ。
数が多いだけ。並べ方が悪かっただけ。間も大事ですよ。
やっぱエキシビは見せ方だよなあ、としみじみ思ったことでした。
ここの学芸員の方は、もう少しエンタメ寄りの考え方をした方がいい。
あの考え方では、今後も人は来ないと思うよ。
展示コーナーは20分くらいで通過、アンコールワットの紹介映像を見ながら1時間くらい昼寝。
という、本末転倒も甚だしい見物になってしまった。
腹は立たないが……今後に向けて精進してほしいとは思う。
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