水村美苗という人は知らなかった。Wikiを見たところ、まあわたしが知らなくても仕方ない作家だな。
辻邦生と水村美苗の往復書簡。そして新聞連載。
これは内容に対して、そのスタイルが非常に活きた形だと思うね。
何しろ今、文学論なんて誰も読まない時代でしょう。……まあそれは言い過ぎなのかもしれないが、
文学論を読もうなんて根性ある人はごくごく少数派だろうなとは思うわけです。
だってわたしも読みたくないもの。
文学論だと、辻邦生はそもそもガッツリ書く人であるため、誰もが読むというわけにはいかないだろう。
しかし新聞連載。ハードルは下げていかないと。
それが書簡という形を取っていることで、「論」まで行かずにあっさりと詩的で上品な文章になっている。
これなら誰でも読めるだろう。何しろ1回の分量が文庫で3ページくらいなので、
何か構築的なことを書こうとしてもその余裕はない。
ならばあっさりと上品なクッキーとして、みなさまのお茶うけによろしいように供するのは良い方法。
内容的にはさくさくっと名作を挙げていって、それに対するキモチをさらさらと書く感じだ。
「一般受け」や「有名どころ」という縛りもあったと思うので、目新しいものはさほどなかった。
……わたし、「パルムの僧院」読んだっけ?
読んだとしたらここ2、3年なんだけどな。
「クレーヴの奥方」を読んだ記憶はあるけれども……
あ。しまった。「パルムの僧院」読んでるわ、2年前に。
現時点で感想はカケラも残ってない。誰が主人公だったか、どんな話だったかも残ってない。
辻・水村が激賞する作品でも、わたしの手にかかればこんなもんです。
まあでもいいんだよ。創作物において――とりわけ書籍という創作物において、
老若男女が口を揃えて褒めそやす、という作品は有り得ない。
(ちなみに大ベストセラーになるものはね、幸せな少数の例外を除いては、普段本を読まない人に訴えかける内容
だからこそ大ベストセラーになるという構造だからね。そういう作品は往々にして、普段本を読んでる人にとっては
食い足りないということがあるもんだよ。)
というよりも、老若男女が口を揃えて褒めそやす本が実在したらそれは絶対間違っている。
そんな現象が起こるようになったら末期だ。そんな日が来ないことを祈ります。
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水村美苗が、辻を“プリンス”と呼びかけまじきノリだったのには若干の怖れを感じた。
でも告白しちゃうと、わたしも辻を貴公子だと思うもの。書くものを読んでも、写真を見ても、対談の語り口も端正。
なのでアコガレのお兄様を前にした一昔前の女子高生みたいなノリだった水村美苗はユルす。
また辻も後半はそのノリに紳士的にもノっちゃって、なんだかもうヤレヤレ、みたいなところはあったですよ。
でも往復書簡はそういうノリが合ってないと見ててつまらないからね。しょーがないですね。
水村美苗は辻邦生を面識がないままやりとりをするのがいいと言って、実際連載終了まで会ってなかったそうだ。
さすがに連載が終わった時は会ったんじゃないかな。どうだったかな。
辻もだいぶ高齢になっていた頃のことだろうから(死ぬ前の年の発行ですね)
あまりぐずぐずしてるともう永遠に会えなくなってしまうんですよ。
本を図書館に返してから書いているので、中身に言及できなくなった。
面白い本でしたよ。さくさくと。
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