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◇ 有吉佐和子「開幕ベルは華やかに」

有吉佐和子は以前「悪女について」を読んで、その巧みさに唸った。
今回のこれも上手かったね。……上手かったけれども、若干尻すぼみだった感もあるか。

犯人が誰かということと、その種明かしは意外だった。
ただミステリとしてみればちょっとズルい気はするな。なので、ミステリとしては読まないようにお願いします。

どこが面白いかというと芝居の世界の舞台裏。
そこまで暴露的な話ではないし、裏の裏まで書いているというわけでもないが、
(小説としての)主役が八重垣光子、舞台上の相手役が中村勘十郎という名前だと、
これはもう水谷八重子と中村勘三郎を想起せずにはいられない。

話の中で、けっこう八重垣光子が実はエグイ役柄なので、いいんかいな、これ、と思ったけど、
有吉佐和子は演出家でもあり、水谷八重子とは親交があったようだ。本人了承の元かもしれない。
水谷八重子は初代ね。中村勘三郎も二代前がモデルらしいけど、わたしは先代勘三郎しか知らないので、
あのイメージで読んでた。でもけっこう口吻が似てる気がした。親子だもんね。
初代の水谷八重子はああいう句読点の多い喋り方をする人だったのかなあ。

舞台上での丁々発止は、もっと長く書いていて欲しかったくらい。
特に岡山秋代の部分は面白かった。あのシーンを面白がるのは「ガラスの仮面」が遠因だろうな。
詳しいことは忘れたけど、北島マヤに偽の台本を渡して、実際の台詞が全く入ってない状態で舞台に出させる。
話の筋が全く不明の北島マヤは鉄砲百合の茎を噛みしめ、台詞を言わず、
舞台上で姫川亜弓がそれを導く。というシーンがあったはず。

たまに映画とか見てても、これはアドリブかな?と思う時があるけど、実際はどのくらいアドリブがあるんだろうね。
今やってる大河ドラマ「独眼竜政宗」では、秀吉の勝新太郎が大変アドリブを利かせてるのではないか、という
シーンがあって、当時ぺーぺーの渡辺謙は相当に苦労したろうなあ、と感じている。

しかしすごいね。作家としてもジャンルは多岐にわたっていて、更に劇作家で演出家とは。
力いっぱい生きた人、という印象だ。若くして亡くなったのは生き急いだ感がある。
今ならエンタメの書き手として押しも押されもせぬ存在だろうが、
当時はエンタメがそれほど勢力を持ってなかったんじゃないかな。
wikiを読むと孤軍奮闘の感が強い。

あまりに作品数も多いし、ジャンルとしてはわたしが好きじゃない方向のものも書いているから、
ツブそうとは思わないが、「華岡青洲の妻」「和宮御留」「ふるあめりかに袖はぬらさじ」は
読もうかと思っている。

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