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◇ 高橋秀実「からくり民主主義」

この人はルポライターで、各内容、諧謔なのか揶揄なのか判然としないが、
ユーモラスにつづられている。内容は決して深くはない。でもそこがいい。
今回のテーマは短編で、全部で11点。

「クレームの愉しみ」「小さな親切運動」「統一教会とマインドコントロール」
「世界遺産観光」「諫早湾干拓問題」「上九一色村オウム反対運動」「沖縄米軍基地問題」
「若狭湾原発銀座」「横山ノック知事セクハラ事件」「富士山青木ヶ原樹海探訪」
「車いすバスケットボール」

わたしなんかは物事の表面しか見ないので、沖縄基地問題についても、
せいぜい考えることは基地から利益を得ている人もいるだろうしなあ、とか
軍用地主の存在なんかもごたごたする原因なんだろうなあ程度までで、

「反対派が反対してくれるからこそ補償額も上がる」
「テレビの前で派手にシュプレヒコールを上げている人のなかに地元の人はいない」とか、

軍用地は貴重な資産で、借地料も高額なら売却されると聞けば応募者が殺到し、
担保の優良物件、町へ入ってくる借地料が町予算の大部分を占める、
などと読むと、改めて想像以上に米軍に経済的に依存しているんだなあと思う。

それも町有地への借地料の分配も町民全員に平等にいきわたるわけではなく、
戦前から地元へ住む「男性」の戸主に対してだけ払われるらしい。
ある自治体の場合だと、支払いが受けられる条件に該当するのは世帯の約3分の1。
他の人には何も出ない。何十年住んでいても。

支払いが受けられる人の中には私有地を持っていて、そちらから借地料が入ってくる
場合も多いから、働かずに酒を飲んで暮らせるということになる。

人間、辛いものはたくさんあるが、不平等を日々意識させられることも
そのうちに入るだろう。実際に働かずに暮らせる世帯自体は全世帯の3分の1も
あるかは不確かだが、それが10パーセントとしても隣近所には1軒くらいはいて、
いい家に住んで高級外車を乗り回すという生活ぶりだとすると、
やはり心穏やかにはいられませんわな。

しかもこれを読んだだけで考えると、分配の基準にも問題がありそうだ。
「男性戸主」だけに限定するのは既に今の時代にはおかしいと思うし、
「戦前からの」地主への限定もどういう考えに基づいてそうなってるのかちょっと不明だし、
まあ土地に対しての借地料だから地主に払われるのはしょうがないけれど、
基地があることの迷惑料のようなものは町民全員に対して払われてないのかな?

――とか、本を読んだからこそちょこっとだけ考えるけれども、
基本的には余所の土地のお話なので、一日たてばすぐ忘れる。
でも普段意識しないことだけに、この本を読んで認識出来たことは良かった。
この本はそういう「ちょっとした認識」をさせてくれる本。
深くなさがちょうどいい。これでがっつり深刻に書かれたら読むのがつらかっただろう。
この本の深くなさは、それがお手柄。

いろんな人がいて、いろんな立場があって、とかくこの世は住みにくいよ。
白か黒の世界なら世の中簡単……それでも簡単でもないが、実際は白から黒の間には
無限に様々な濃淡のグレイがあって、なんだったらさらに緑もピンクも赤もあるもんね。
人の世は複雑だ。思いを致すだけで疲れてしまう。

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