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◇ 宮田珠己「日本全国津々うりゃうりゃ」

いやー、やっぱり面白いなあ、宮田珠己。
この人の書く戯文は芸ですよ。
そうでなかったら、自宅の庭を書いてエッセイ一丁上げられない。
いやまあ、庄野潤三とかいるけど。

一応この本は旅行記ということで、編集者がお伴に(?)ついてあちこち取材旅行に
行ったりしているのだが……(←その旅のテーマは一般的なものからは相当離れている)

予算がなかったのか、時間がなかったのか、この中の一編には自宅庭を旅する、というものがあり。
何の変哲もないはずの、おそらく建売一戸建て、庭というのもおこがましい、むしろ通路
(と、本人が書いてる)的スペースが、宮田の筆で15ページの読み物になるんだから。
芸だ。ほんとに。宮田は胸張ってヨイ。
戯文家と名刺に刷った方が実態に即していいんじゃないか。あ、でも営業的にはマイナスか。

この人の本は、外で読むと限りなく不審者になってしまう。
地下鉄とか定食屋で、ニヤニヤクスクスしてしまい、周囲が自分を見る目が……
あんまり気にしてないけどね。見知らぬ人に「何やコイツ」と思われても別にカユくない。
憂鬱な通勤時間が楽しく過ごせるという意味では大変にアリガタイ。
持ち歩く本によって、シゴトの憂鬱がほんの少し軽くなったりするもんですよ。

まあユルさもユルし、といった芸風ではあるので、ダメな人は全然ダメだろうけど。
海の生物の手書きイラストを入れたりして、これはどう見てもスペース水増し感アリアリなのだが、
それも個性だと捉えられる。ワタシは宮田にアマイ。
わたしの好みはある程度詰まった文字組みと内容なのだが、
――宮田珠己にそんなことを期待してなんとしよう。
それはクラゲに一列に整列して規則正しく泳げというくらいに間違っている。
クラゲは漂ってこそクラゲ。時々刺してこそクラゲ。
本来ならば、彼が好きだというウミウシに例えてあげたいが、
わたしがウミウシを見たことがないのでクラゲで代用。

がんばれ、宮田珠己。……こんな芸風ではアニメにはならんやろうし、
テレビにコメンテーターとして呼ばれるのも――一度、NHKの本の番組で見たけど、
わりとメンはいいが、コメントがまっとう過ぎてインパクトはなかったので――期待薄。
そうすると地道に書いて地道に本にしていくしかないんだからさ。

日本全国津々うりゃうりゃ
宮田 珠己
廣済堂出版
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でも、世の中何が起こるかわからない。
もしかしたらこのユルいエッセイが、こういう疲れた世の中で注目される可能性はゼロではない。
ユルさを保つのも大変だろうが、質を落とさないようにお願いします。

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