これは池澤推薦。
なんと!池澤推薦本30冊目にして初のレベル7!最高評価!
「ゆっくりと読んで本当に楽しい」というのは、以前池澤が富士川義之の書評本について
言っていた言葉だが、わたしにとってはこの本がまさに
「ゆっくりと読んで本当に楽しい」本でした。(ちなみに富士川義之も楽しかった。)
バランスの良さが実にわたし好み。
実際部分とそこから展開する思考、ほんのちょっとスノッブ、
そして意識して抑えようとしているようには見受けられるが、ついつい零れてしまう
浪漫主義者の顔。
「記者出身の書き手の文章には潤いがない」という偏見がわたしにはあるのだが。
多分、潤い=詩情なんだと思う。記者なんていうのは、目の前のものをひたすら
追っかけて行く商売で、まあもちろんジャンルによるけど、その情報の鮮度のみを
重視することになりがち。質は二の次。
鮮度のみを重視した結果、発酵や熟成が全くない、旨みのない文章になる。
――というのがあまりにもひどい偏見だとするならば、
記者になるような人は、あまり文学書とかは読んで来なかった人たちなんだと思うよ。
だが、矢島翠という人は、多分かなり読んでいる人。
この本の中にもずいぶん多くの文が引用されているけど、わたしはそれは気にならなかった。
巧く、さりげなく引用している。本人の血肉になっているから自然なんだろう。
嫌味がなかった。
――ああ、でもなんか残念だな。
読んでる間は、こんなに楽しめる本は久しぶりだと思いながら、わくわくして読んでいたのに、
一度読み終わると、その魔法が覚めるのは早い。
さくさく読もうと思えば読めてしまう傾向もあるので、心に余裕がない時だったら
わたしも通り一編読んでそれだけだったかもしれないなあ。
こんなにいい本の感想で、こんなことしか言えないのかと思うと、
自己嫌悪に陥りそうだ。もう少しがんばれ、自分。
コメント