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◇ 香納諒一「あの夏、風の街に消えた」(ただし46ページまで)

人生2冊目の「1行目地雷小説」。
(ちなみに1冊目は佐○賢一の「傭兵ピエール」)

   それはまだ二十世紀のことだった。新宿の高層ビル街と、毎日の平均利用者数が
   数百万人を超える新宿駅を間に置いてむき合う新宿御苑に、うっすらと朝靄の漂う夏の早朝、
   ひとつの巨大な影が佇んでいるという噂を耳にしたのは。

……まあこんなところで目くじら立てても仕方がないとは思うんだけどさあ。
虚心坦懐に読み始めて「は?」と引っかかってしまったんだから仕方がない。
“毎日の平均利用者数が数百万人を超える新宿駅”の部分。
この部分ってすごく陳腐じゃない?

数百万人って、200万超から900万超まで適用される、全く意味のない数字じゃないか。
そういうどうでもいいことを書くなっちゅうねん。
これが「1999年の平均利用者数が393万5690人の新宿駅」
というなら表現だと思うけど。あ、数字は適当です。

この後にその新宿駅の混み具合とか雑踏の描写になるのなら、まだいい。。
でもこの次に続くのは巨人の(いえ、あの、野球チームではなく)話で、そしたら別に
高層ビル街と何たらかんたら新宿駅についての言及は不要じゃん。

「それはまだ二十世紀のことだった。うっすらと朝靄の漂う夏の早朝、
新宿御苑にひとつの巨大な影が佇んでいるという噂を耳にしたのは。」
これだけでいいのではないか。

どうも良くない予感を覚えつつ読み進める。
最初の2ページで、もうすでにやたらと言葉数が多い。
水増し感アリアリ。言葉数の多さを水増しと感じるのはそれが不要な言葉だからだ。

2ページのプロローグの後は回想部分が始まる。
これがなあ……。
すごくキモチワルイ。語り手の視点の揺れがキモチワルイ。

46ページまで読んだ限りにおいては、この回想部分が話の基幹のようだ。
(460ページの小説の46ページまでで、話がほとんど始まっていないので、
この調子で話が展開するのであれば回想が基幹にならざるを得ないだろうという判断)
その回想における語り手の立ち位置が……。ううううう。読み返すと三半規管がキビシイぜ。

回想部分では、語り手は19歳の大学生。な・の・だ・が。
どっちにしたいの。19歳の大学生の現在進行形で語らせたいの?
それともプロローグ時点のX歳(←プロローグの時点の語り手の年齢は不詳)が語っているの?

前者なら「携帯電話がものすごい勢いで普及して(中略)まだ数年先の話だ」なんて
唐突に未来に来て書くのは止めてよ。
後者として書いているなら、もう少し対象との距離がないと。時が経った分、語りに客観性が
加わるべきなのに。べったり密着しては駄目じゃん。
細っかく書けば書くほどいいとでも思っているのか、
(それとも字数を増やして原稿料を稼ごうと画策しているのか)
回想のくせに思いつくもの全部並べまくっているので、うざったくってしょうがねえ。

19歳の文章にしては言葉の使い方が変。
しかしそれ以上の年齢だと見るには、話の持っていき方がたどたどしい。幼い。
というツラさもある。

水増し感にも関連するが、文章の陳腐さも乗り越えられない壁。もうカユくてカユくて。
この紋切型の、どこかで見たような比喩を止めろ!
フェイク感が漂う。無理して文章を綴っているのを感じる。なんでこうなってるのかねえ……。
まさかと思いますけど、村上春樹あたりを気取っているわけではありませんよね?
他の作品はもう少し身の丈にあった書き方になっているのだろうか。

※※※※※※※※※※※※

   あの頃の僕はといえば、京都という文化と伝統の街の片隅で、浅く微睡むような
   毎日を生き、どこにも新たな一歩を踏み出せずにいた。

――陳腐。“浅く微睡むような”はぎりぎり可だとして、“京都という文化と伝統の街の片隅で”
なんて書くなッ!オートマティックに決まり文句を出して来るんじゃねえッ!

だいたい、浅くまどろむのと文化と伝統の街がどう関わるっちゅうねん!
ってか、関わる話を書いているんならいいんだ!
京都が文化と伝統の街であることが全く関係ない小説のなかで、こんなこと書くなッ!
……まあ、わたしが読んでない残りの400ページで、京都の文化と伝統が
主要な要素になって来るのだったら、謝る。ごめんなさい。

作者は、言葉を修飾しさえすればいいと思っていませんか。
架空の王国は、確かな言葉の積み重ねで形作られるものなんだよ。
それをこの作者のように、もうなんでもかんでも放り投げて積んでいってはそれは単に瓦礫の山。
瓦礫の山を460ページも登って行くなんてツラすぎる……
と思ったのでギブアップ。残り少ない人生、もっと読むに値する本はいくらでもある。

あの夏、風の街に消えた
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山尾悠子とか三好達治の言葉の選択の確かさを見習って下さい。
まあ山尾悠子のレベルまで到達出来る人は、ほぼいないだろうけど。

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