ほぼ、前回読んだ「群青の湖」の感想を繰り返す……。
本作は出来婚ではなく、不倫の話でした。男は日本画家。主人公は料亭の養女で、
とある政治家の愛人で、舞の名手。
言いたいことは前回と全く同じ。――主人公に甘すぎる。
作者は奥さんを相当悪く書いてますが、最後、男が死んだ後に対決するシーンで、
あんなにキレイゴトしか言わないのであれば、大変出来た奥さんだよね。
あんな程度では主人公はちょっとも傷つかないであろう。傷つく権利はないであろう。
いくら冷え切った夫婦関係だといってもね。
これみよがしに愛人をモデルに作品を描かれては妻の面目丸つぶれじゃないですか。
その作品を世間が大層もてはやす。その時の妻の心の痛みは全く描かれないけど、
それでいいんですか。片手落ちすぎると思うけどなあ。
主人公に、男は一体何百万つぎ込んだんだか。主人公は舞の家元の後継者に決まっており、
舞のゆえに出費もかさむのだが、男はそういうオカネをぽんと出す。
奥さんはそりゃ激怒するでしょうよ。激怒してあたりまえでしょうよ。
まあ、妻の嫌がらせは陰湿だけども、そりゃー不倫をしているんだから当然だよねえ。
でも主人公はとても被害者面。
苦労している、憔悴している、やつれている、という出来事だけが続き、
これだけ続けばもう身体がなくなっちゃってませんか?と思うくらい。
いや、でも実はほとんど苦労してませんやんか。
養女格で長年世話になってきた料亭を出る時にも全然修羅場になってないし、
担保も何もないのに借金出来て小料理屋は開業出来て順調、
後援者には事欠かない。(後援者に苦労しているとは書かれているけど、とてもそうは見えない)
男とのすれ違いに憔悴するシーンが、もうええっちゅうねん、と思うほど繰り返されるが、
なんというか……色々な手を尽くして努力して努力してもダメだった、という部分がない。
ためらって、気を使って……つまり相手にむしゃぶりつく強さと必死さも持てずに
ちょっと拒絶されてショックを受けて身を引く、みたいな。
いや、別にいいんですよ。その程度で本人が諦めるなら。
でもそれなら、被害者面は止めて欲しいなあ。
キレイに生きるなら、“どこまでも諦める”という覚悟(あるいは意気地の無さ)が要る。
キレイに生きる代償はそういうこと。
でも主人公にはそういう覚悟もないのに、作品中、キレイゴトで生きられるから
――主人公に甘い。
と言いたくなるのだ。
日本画の部分と舞の部分は、それこそ書きぶりのキレイさが上手く活かされていて
とてもいいんだけどねえ。こういうところは好きなんだが。
思うんだけど、芝木さんは敵役が出てこない小説を書くという選択肢はなかったもんかね?
そうすればキレイゴトの小説で通せたのに。
そうすれば、多分わたしは彼女の小説を愛していたと思う。わたしはキレイな話は好きですから。
いいじゃん、芸道に精進する娘と、その恋を許さない(しかし誰も悪くない)状況を書いた話で。
何もわざわざ不倫にしたり、(「群青の湖」での)厳しい姑を出してくる必要はないのだ。
多分この人の作品はみんなこんな感じのような気がする。
この2作で終了だな。
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