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◇ チョーサー「カンタベリ物語 上下」

カンタベリーには行ったこともあり、アトラクションの“CANTERBURY TALES”
にも入ったことがあるというのに……読んだのは初。

うーん。まあ面白い。面白くないことはない。
読んで一番感銘を受けた(?)のは、チョーサーの女性観だ。いや、女性観というほど
大仰なものじゃないか。何に感心したかといって、この喝破。

女が一番したいこととは、男を支配することだ。

ううむ。真実。
――まわりを見回してごらんなさい、旦那の手綱をがっちり握っている妻のいかに多いことか。

話の趣向としては、カンタベリーへの巡礼にたまたま同道することになった
身分も職業も全くばらばらな30人が、道中の退屈しのぎに一人ずつ話をしていくというもの。
それこそ身分や職業に応じて、お堅い話あり、柔らかい話あり、バラエティに富んでいるのだが、
総じて男と女の(というより夫と妻の)関係性を取り上げた話が多いので、
男とはこういうもの、女とはこういうもの、という言及が少なからずある。

こういう部分をいちいち列挙するというのも――わりと面白いことなのだが、面倒なので割愛。
(ここを割愛すると本の感想にならんけど。)
だが、チョーサーに対しては「意外にさばけたおっさんやん」という感想を持った。
何せ14世紀の人ですから。もっと女性の人間性に冷淡な――当時としてはごく普通の――
人を想像していたのに、もう少しでフェミニズムに手が届きそうな立ち位置。
読んでいて気分がいい。面白くないことはない、という所以。

だが、物語としての完成度がねえ。
多様性を褒めるべきなのだろうけど、それよりも支離滅裂さが目につく。
各人が語る、その話自体もどこかから持って来た焼き直しが多く、
それが悪いという時代でもないが、現代人からすると若干退屈。
特に最後の牧師の話は、キリスト教の説教から一歩も出ないようなことを延々と喋っているだけなので
あまりに退屈で飛ばした。まあそれでも読了したことにして下さい。

チョーサーの予定では、30人の巡礼に巡礼路の行きと帰りに各人二話ずつ語らせ、
合計120編の短編にするつもりだったらしいが、24編の時点で本人が死去したそうな。
予定の1割ちょっとで未完なわけで、実際に120編集まったら
「東の千一夜物語、西のカンタベリー物語」となったのかもしれない。
そうなっていたら、――さらに読むのに根性が必要だったと思うので、わたしはいいや、24編で。

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それにしても、紀元1000年に書かれた源氏物語は偉大だなあと――
これを読んだ後ではひしひしと感じる。
もっともイギリスとしての文化の始まりは、イメージに相違して日本よりも
だいぶ時代が下がると思われるので、単純に1000年と1400年とを
比べて云々するのも意味がないことではあろうけど。

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