普段から本を読んでいる人も、戯曲となると読んだ数は少ないだろう。
まあシェイクスピアなんかは戯曲ですが。
でも、戯曲は基本的に会話で構成されているから、読みやすいことは読みやすいんだよね。
この本も、多分読了まで1時間かかってないんじゃないかな。さくさく読んで終わった。
さくさく読んだので、そんなに中身に思うところはないのだが……
戯曲5篇。テーマとしてはそんなに目新しいものではないよね。
どこかで見たようなシチュエーション。どこかのSFで見たようなシチュエーション。
最後の「ジョンとジョー」は、話はありがちなんだけれども、話とは別種のまだるっこしさが
わりと面白かったか。これは舞台で見たいかな。文字で読むとペーソスが漂うけど、
これをコミカルにやって欲しい。
ただ、5篇とも閉塞感を如実に表していて、そこが興味深かった。
描かれているのは囚われた人々。どこへも行けない、と魂で叫んでいる人たち。
亡命をしなければならなかった、アゴタ・クリストフ自身の境遇を考えてみると、
こういうテーマでしか書けなかったんだろうなという気はする。
母語で書けないのは。――不幸、と言っていいこと。
母語以外でも書けるということと、母語では書けないというのは全く違う。
母国にいても閉じ込められていた。亡命した後でも、おそらく疎外された存在だろう。
その閉塞感が作品に色濃い。少し生々しすぎて、プロの書き手としては赤裸々すぎると感じるくらいだ。
やはり「悪童日記」の、現実との距離の取り方は秀逸だった。
戯曲はその前に書いていたものだそうだから、まだ準備期間であるのかもしれない。
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この本を読んで思うのは、何はさておき訳者あとがきの熱さ。
訳者は堀茂樹。いやあ、惚れてますね、お前さん。
「悪童日記」の頃はだいぶ謙遜していたのだが、この本くらいになると手放しの
アゴタ・クリストフ礼讃!ですよ。
その中には「俺の目利きはどうだ!」という自画自賛も多く含まれてはいるんだけど、
それが微笑ましく思えるのは、やはり著者本人への純粋な敬意を感じられるからだろうな。
アゴタ・クリストフの成功が嬉しくてたまらない、といった感じ。
著名人のアゴタ・クリストフファンの名前を挙げているのは、
――ミーハーというか、軽薄というか、訳者としてはしゃぎ過ぎに見えないことはないけれど、
その熱さに免じてユルす。
早川書房
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