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◇ コールドウェル「タバコ・ロード」

アメリカ文学最短コース遍歴中。

……これは不条理ドタバタコメディってことでよろしいか?
っていうか、そう言う風に読まなきゃ読めないよ。これ。

舞台化されてロングランをとった話だと概要に書いてあった。
ゆえに読みながら、頭の中でドタバタ喜劇の舞台としてイメージを描いていた。
しかし解説を読むと、舞台を見た観客が笑っていることに、作者は非常に不満だったらしい。
――じゃあ他にどうせいっちゅうねん、と少しキレ気味のわたし。

だって登場人物があまりにも愚かに描かれすぎているんだもの。
いくらなんだってありえないでしょ。
孫がおばあさんをひき殺して、そこにいる家族がそのおばあさんの生死も確かめずに
ただひたすら、走り去ったその新車に乗せてもらえないことを憤っている、とか。
16歳の息子と39歳の女の結婚を何の疑問もなく承諾した上に、
その義父にあたる男が39歳の女に色目を使う、とか。
我が子が十数人も家出をして誰ひとり戻って来ないことに疑問を感じず、
近くの町に住んでいるという噂を聞いても訪ねていってもみない、とか。

上記のようなシチュエーションも、それなりの背景が描かれていればドラマであり得るのに、
そういった背景もなしにそんな話にするから「こいつらはそんなに馬鹿なのか?」
としか思えない。動物並の知能しかない。
人間を動物並の知能として書く。それはつまりブラックジョーク的風刺だろう。
しかし……それで笑われて不満というのは、作者は一体何をしたいのだ?

アメリカ文学得意の社会抗議小説――として書いたのなら、あまりにも極端すぎるんだよ。
極端すぎるものは笑われる/嗤われるものだ。
ここまで書けば、受け取り手はわらうしかないではないか。
実際可笑しいもの。テンポの速い、ドタバタコメディとして舞台にすれば面白いと思う。
それしか考えられない。

プア・ホワイトを何だと思っているのか。
善意で書いているにせよ。見くびり過ぎではないのか。その部分が非常に腹立たしい。
相手がたとえ自分に十分な好意を持ってくれているとしたって、犬並みに扱われたら
頭に来ないか。犬並みというのが言い過ぎなら、幼児のようにと言ってもいい。
そして作者の、立ち位置はどこなの?
“我ら”を書いてるのではなく、“彼ら”として書いているんじゃないの?
もしそうならこの扱いはひどすぎる。

タバコ・ロード (岩波文庫)
E. コールドウェル
岩波書店
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唯一、この本で好きな部分は短いことだな。
300ページ弱。辛気くさい話はおしなべてこのくらいの長さでまとめて欲しい。

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