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◇ 森茉莉「恋人たちの森」

「ボッチチェリの扉」
「恋人たちの森」
「枯葉の寝床」
「日曜日には僕は行かない」
の中編4編が1冊になったもの。
森茉莉はここのところエッセイを何冊か読んで来たわけだが、
耽美小説家としての彼女に出会うのはこの本が初。

1編目……あら、意外と普通だなあ。耽美派っていうほどのことはない。
2編目……うん、まあこのくらいは耽美派としてはアリだろう。
3編目……2編目と全く同じ話ではないか?しかも……格段にシツコイぞ。
4編目……また同じやないか!同じことこんなに書かれたら飽きるわ。

というような変遷を経て、森茉莉はもういい、という帰着になりました。

何もこの4編を1冊にしなくてもという感じだ。
まあ1編目はね、多少は違う話なんだけど。あとの作品は「サドっ気のある年上の美青年が
マゾっ気のある美少年を愛し、嫉妬に苦しむ」……全部これ。飽きるねん。

こういう要約をしたら、世の恋愛小説は大なり小なりみんな同じになってしまうかもしれないが、
この3作品は道具立ても全く同じなんだもんなあ。
美青年の職業はフランス文学の大学教授兼小説家または小説家。優雅・冷静の皮を被った情熱。
美少年は家で飼われているその助手。媚。女のような小狡さ。
嫉妬の相手は謎めいて野性的な男。言わば肉食獣。
他に飾りとして美少年の彼女が出てきたり出てこなかったり。

いや、描写はエライと思うよ、森茉莉。
色や例えを駆使して、豊かな情景を書きあげる。フランス語が鼻につくといえばつくが、
ああいう経歴の人だから仕方ないだろうし。

しかしあんなに同じことを書かれてもね。
須永朝彦もそうだったかな。シュミの人はそのシュミ一つのことしか書けないんだろうか。
想像してちょっとぞっとしちゃった。森茉莉は小説として他にも少なくとも数冊は書いているが、
その全てが自己分裂のような同じバリエーションの話かもしれないと考えると。
これを数冊分も読むのはエライことだぞ。というわけで森茉莉はこれで終了。
エッセイはまあ、面白いものもあったけどね。

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