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◇ CLARE BOYLAN「Emma Brown」

まあよくわからないんだけどもね……。

一人称の語り手はMrs.Chalfont。未亡人である中年女性。
貴族ではないがある程度裕福な暮らしをしている。
性格は冷静で公平。しかし観察者としての見方が若干冷たい部分がある。
彼女の屋敷の近くにはフクシャ・ロッジという小さな女子寄宿舎があり、
Misses Wilcoxという三姉妹?が経営している。
(この三姉妹の区別がつかないというかキャラが立ってないというか、よくわからない。)
そして、Mrs.ChalfontとMisses Wilcoxの共通の知人にMr.Ellinという中年男性
(40歳くらい?)がいる。彼は独身で、わずかな財産で慎ましい暮らしをある意味楽しんでいる。
傍観者的人生。

ある日、フクシャ・ロッジに立派な身なりの紳士が15歳くらい?の娘を預けに来る。
彼女は美しくはなく、性格もとっつきにくかったが、持ちものや身なりは立派で、
それがゆえにMisses.Wilcoxには大事にされる。大事な金づる。
しかしクリスマス休暇をどうするか、とMisses.Wilcoxが父親に手紙を出すと、
その父親だったはずの人は実は偽名で、存在を消していた。
「学費はどうする!」という話になり、昨日まで下にもおかぬ扱いを受けていたMatilda(娘)は
途端に厄介ものとなり、一転して邪険に扱われるようになる
(小公女ですな)

Matildaに自らの素性を明かすようにいくら宥めてもすかしても、彼女は自分のことを語らない。
謎の少女。そこが小公女と違うところか。

Mr.Ellinは自分でMatildaと面談し、その聡明さに興味を覚える。しかし彼女はやはり
何も語らず、彼女の正体は依然としてわからない。
Mr.Ellinは好奇心を刺激され、Matildaの正体捜査に乗り出す。

Wilcox姉妹たちはMatildaをさらにひどく扱うようになっていた。
Mr.Ellinの仲介によって、Matildaは一旦Mrs.Chalfontの屋敷に仮寓する。
Mrs.ChalfontはMatildaを気に入り、学費も出してあげるし、ずっとうちにいてもいいと言うが、
しかしMatildaは姿を消してしまう。
(ここでそんなにすぐにMrs.ChalfontがMatildaを気に入るのが納得出来ない)

Mrs.Chalfontの回想エピソード。
彼女は貧しい仕立て屋?の長女で、15、6歳の頃、とある御屋敷に子守として雇われた。
(governessと言えばむしろ家庭教師という意味だが、相手の子供がおそらく10歳以下、
そして彼女自身の素養的に、それほど学問に通じていたとは思われないので、
家庭教師というのは違和感がある。)
そこは貴族の邸宅で――だとすればもう少しいい出自のgovernessを雇いそうなもんだが――
通り名をHappen Hearth、家族の名前はCornhill一家。父、母、長男、長女、二男という家族構成。

で、ありがちなことにこの長男とMrs,Chalfontが恋仲になるのですな。えーと、当時はIsabel何とか。
多分長男のFinchはもうちょっと歳上かもしれん。18歳前後。
当然その恋はバレ、Isabelは雇い主である夫人にうとまれ針のむしろ状態、
Finchは軍隊に行かされ、2人は仲を裂かれたのだったか……。

そうこうするうちにIsabelは実家に呼び戻される。懐かしい我が家に帰れたと思ったのもつかの間、
実は母の具合が悪く、治療をうけさせるには金がない。
そしてそこにMr.Chalfontというだいぶ年配の――よくわからないけど50歳近い感じ?
男が現れ、Isabelを妻にのぞむ。彼は小金持ちなので結婚すれば母に治療を受けさせられる。
Isabelはその為に倍以上の年齢の男と結婚する。

しかし結果的には、この結婚はある意味では幸せなものだったのだ。
Isabelは夫を愛してはいなかった。彼女にとっては義務でしかない結婚だった。
だが子供を流産した後の夫の優しさ、彼女のために立派な家を建て、そこに彼女の父と幼い弟妹を
同居させてくれるその優しさ――彼女にとって夫は段々尊敬と情愛の対象になっていく。
年齢差もあったせいで、彼は早くに亡くなってしまったけれど、少なくとも思い出は
美しく彼女の中に残る。

さて一方、Mrs.Chalfontの家から失踪したMatildaだが、――あ、そうそう、彼女は謎の少女なのだが、
本人の記憶に混乱があり、実際自分が誰かを知らないのですな。
知らなきゃ言いようもないわけで……。でもMrs.Chafontの家にいる間に、自分の名前が
Emmaであることは思いだす。で、どうだったかなー、とにかく母探しにロンドンに行く……と思う。
ここら辺がよくわからなかった部分。なんだかのパーティで知り合った、いかにも親切そうな
何とか夫人が実は女衒か人買いかで、危ういところで逃げ出すとかっちゅーことだったような。

っていうよりも、14、5歳の世間知らずの女の子が金もないまま街をうろうろしていたら、
待っているのはあっという間の街娼人生しかないと思うのだが、この話でそうならないのは
大変フシギなところ。

で、なんだかんだあり(何があったのかはよくわからない)、母親を見つける。
しかしその母は人身売買だか殺人だかの罪を犯して牢獄に収監中。近日中に縛り首の予定。
今更ですが、時代は19世紀半ばの話なので……。
Emmaは牢内の母親から罵詈雑言を投げつけられ、深く傷つく。

(その後、何があったかは忘れたが)
母親から離れて天涯孤独になったEmmaはロンドンのテムズ川岸をふらふらとさまよう。
川辺に降りて、そのまま入水自殺か、という雰囲気になりそうになったところで、
年下の少女と出会う。8歳位?
彼女も貧しい身なりをした孤児で、多分犬の糞を拾って生計を立てているストリートチルドレン。
死んだ赤ん坊を連れて歩いている。

身の上話をしたり、死んだ赤ん坊を一緒に埋めてやったりなんだりでこのJennyに
すっかり情が移ったEmmaは、彼女を連れて、彼女のために何とかお金を稼ごうと仕事を探す。
幸い何とかハウス(なんだろう?イメージは居酒屋のような感じなのだが……)で
ウェイトレスのような仕事を見つけることが出来、雇い主もそれなりにいい人なので、
つかの間、忙しいながらも充実した日々を送るEmma。
しかしJennyの体は既に病魔に蝕まれていた。病気のため自室から連れ去られるJenny。
Emmaは重体のJennyを抱えて、再び街をさまよう……。

話がここまで進む前にMr.Ellinの人生背景も語られる。
彼は多分貴族ではないけれども(あれ?紳士階級だったかな?)裕福な家の出なのだが、
兄と大変折り合いが悪く、家族内部の葛藤で苦しんでいた。

15歳頃?5,6歳年上の親戚の少女に出会う。
その親戚の少女は親が亡くなっており、淋しい者同士が仲好くなるうち、
Mr.Ellinはその少女を好きになる。
しかしその少女はMr.Ellinの兄と結婚してしまう。兄の死後は別な、何だかっていうダメ男と
結婚してしまう。Mr.Ellinが気ままなバチェラー暮しを続けているのはこれがあるからなんだね。
そのダメ男も結局は死んでしまうんだけど。で、少女も死んでしまうんだよね、たしか。

さてさて、そして物語は佳境に入るわけだが……

ここで、最初に登場した“謎の父親”が現れる。
何とそれは昔Isabelが愛した、Finchだったのだ!!
……ってご都合主義にもほどがありませんかい?と思いました。だって途中で、Mrs.Chalfontは
Finchが死んだって話を聞くんだもの。でも実は死んだのは二男の方で、Finchは生きてたんですねー。
彼はMrs.Chalfontの前にそれとは知らず現れ、双方ともに衝撃を受ける。
Finchは引き裂かれた後、Isabelがすぐ結婚したことを責め、Isabelは仕方がなかったのだと
弁明し……

そして、その謎の父親がどういうことかというと、現在Finchは新聞記者になっており、
児童売買を社会問題として取り上げるための一手段として、そういうことをしてみたという……
ってわたしこの辺よくわからないんですけど、なんなんでしょう?
ジャーナリストとしての活動の一環として、なんで紳士のふりをして寄宿学校に
身寄りのない子供を連れて行き、金も払わずに放りだすのか。
まあ、この辺は意味がわからなかったので、何かちゃんとした理由があるのでしょう。

この時点でたしかEmmaの行方はわかっていないんだけど、必ず探し当てるぞ!と、
FinchもMr.Ellinも盛り上がっており。
それというのも実はEmmaは、昔Mr.Ellinが愛した親戚の少女がダメ男との間に産んだ子供だったのだ!

……………………。

まあそれから後は、Emmaは無事見つかり、Mrs.Chalfontの養女になり、瀕死の重体だったはずの
Jennyもなぜか生還してMrs.Chalfontの家で暮らしてハッピーエンド。

あ、その前に、間に20年以上の歳月があるにもかかわらず、
焼けぼっくいに火がついたMrs.ChalfontとFinchが結婚するとかしないとかの話になり、
返事をする前にFinchが熱病であっさり死んでしまったりして、
その後Mr.EllinがMrs.Chalfontに結婚を申し込むけど、「あなたはEmmaを愛しているのでしょう?」
などとMrs.ChalfontはMr.Ellinをそそのかし、多分Mr.EllinとEmmaは結婚することになるのでしょう。

……というのが、わたしが読んで理解した梗概です。
多々誤解がある可能性があるのは認める。なのであんまり大きな声でも言えないが。

ちょっとラストはあまりにもご都合主義じゃないかねー。
敵役としてここではほぼ言及しないが、実際はもう少し活躍するMisses Wilcoxも、
なんだかけっこうそれなりにハッピーエンドっぽいし。
どう考えたって死んでるはずだろう!というJennyも生きて出て来るしねえ。
わたしはハッピーエンド好きだけれど、これはもう無理くりまとめましたという域を出ないのではないか

それともちゃんと読めれば心の機微を精緻に書いた、それゆえ説得力のある話になっているのか?
わたしの能力では必要最小限の筋をおそらくこうだろうと辿って行くしか出来なくて、
それで不満が残るのだろうか。

この話は、「ジェイン・エア」を書いたシャーロット・ブロンテが途中まで書いた原稿を、
現代アイルランドの作家が続きを書いて完成させたという成立の仕方をしているそうなんだよ。
まあ「ジェイン・エア」も、突然超自然的精神感応が出てきたりして、微妙にアヤシサは
あるのだけれど、しかしここまではご都合主義ではないと思うよ。
適度なご都合主義はフィクションの宿命であるとはいえ……

Emma Brown
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で、まあ答え合わせのために邦訳を探したが、どうも無いっぽい……
なので本当はどういう話なのかは謎のまま。

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