長かった……。(話が、ではなく。まあ話も長いけど。)
わたしが有栖川有栖を読んだのは多分10年くらい前。まだ課題図書リストを作り始める前。
その頃の自分は、読んだことのない作家に手を出すのを非常にオソレている臆病者で、
かろうじて初物に手を伸ばせるとしたらミステリ分野のみだった。
有栖川有栖は「英国庭園の謎」という短編集が入口。「ミステリ」で「英国」ならば、
それほど地雷は踏まないだろうと踏んでのこと。
「英国庭園の謎」が小粒ながらもキライじゃなかったので、その後有栖川有栖作品は
20作くらい読んだかな。正直凡作も多い人だとは思うけどねー。
本人が本格ミステリ命!を公言しているわりには、彼の良さは作品の情緒部分である気がする。
ミステリとしてどうよ、というバカミスで、情緒部分で何とか挽回している作品も多い。
そんな中、ミステリとしてもストーリー上の旨みも両方高く評価出来るのは「学生アリスシリーズ」。
誰が何と言おうと有栖川有栖の代表作はこれです。
何しろ基本再読しないわたしが、これは買った。しかも「孤島パズル」は何度か再読さえしている。
ちょっと勢いがついたら、名作って言っちゃおうかな、と思うくらい。
キャラクターの人気という意味では「作家アリスシリーズ」の火村教授の方が高いのかな。
(余談ですが、「探偵ガリレオ」じゃなくて作家アリスシリーズがテレビドラマになっても
おかしくはなかったんだよね。そこが大衆人気作家と本格ミステリ作家の違いなのか……)
冊数も多いし。でも火村教授の方は短編が多いのに対して、学生アリスシリーズは全部長編。
1作目が有栖川のデビュー作「月光ゲーム」、2作目がわたしイチオシの「孤島パズル」、
3作目ががっつり読ませる「双頭の悪魔」。
そして4作目が本作「女王国の城」。なんと3作目から15年ぶりの出版。
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学生アリスシリーズの4作目が出たと知った時は、久々に本屋でアドレナリンが分泌された。
「おおおっ!!」と叫んだと思う。(←叫ぶな)
……だがわたしには鉄の掟がある。
字の本は文庫で買え。
――待ちました。2007年9月から今まで。
1月末に出版されることを知り、さっそく注文した。届いた後、時間がとれる連休まで待ち、
2日かけて上下巻合計約870ページを読んだ。
期待通りの面白さでした。
わたしにとっては、懐かしいあの面々と再会出来る喜びが一番だったかなあ。
15年ぶりということで危ぶんでいたキャラクターの変化も、ほとんど感じなかった。
50歳近くで大学生を書くのも有栖川はん、おつかれさんやな、という気分ではあるが、
特に違和感はなかったし。
正直、こっちもハードルはあまり高くしてはいなかったしね。
脂がのった時期が15年前だとしたら、そのレベルを今まで保持し続けるのは多分無理な話。
特にミステリ作家は……。
本格ミステリは、ある意味数学と一緒で若いうちの脳力が勝負なところもあるから。
ミステリの部分も、一ヶ所「ああ!」と言わせてくれた部分があるので、そこで満足。
事件が解決してから、周辺の小さい謎もいくつかぼろぽろ解き明かされるのだが、
ここは若干蛇足かと感じた……。でも不満に思うほどではない。
まあとにかくお久しぶりですねと。再会できて嬉しいですよと。言いたい。
次作が完結編だそうだ。……ええ加減とっとと書いてしまえばいいのではないかと思うが、
4作目出版後3年以上が経過した今でもまだ出てない。
また15年、間があくのではなかろうな。
今後読み始める人に一言。
シリーズ1作目の「月光ゲーム」は、個人的にはかなり読みにくい部類に入る。
デビュー作なだけに拙い。話の流れがぎくしゃく。もちろんいいところもあるけど。
でも我慢して「月光ゲーム」を読めば、「孤島パズル」は青春小説としてもいい話ですから、
がんばって読んでみて欲しい。
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