うーん。だいぶ不満が残るなあ……。
三部作なんですよ。「黄金の羅針盤」「神秘の短剣」「琥珀の望遠鏡」と。
このうち、1作目と2作目はまあまあ納得出来る話だったんだけど、3作目を読んで
へ?と思う。
なんかものすごく無理くり終わらせてないか。
1作目と2作目で張るだけ張った感のある伏線の、表面的な回収のみに終始してないか。
この三部作でちゃんとストーリー上の役割を過不足なく果たしていたのは
ライラとウィルだけのような気がする。
アスリエル卿とコールター夫人は、人物造型は非常に魅力的だったが、
ストーリー上の役割は今ひとつ果たしきっていないような。
アスリエル卿で言えば、オーソリティーとの対決のためにじゃあ一体何をしたのか、
というのが全然書かれていないし(橋は作ったにせよ……それだけじゃ足りなくない?)
コールター夫人は、まあ行動もコウモリみたいだし、心情的にも(野心と母性の板挟み?)
本人も収拾つかないんだから仕方ないとはいえ、非常に中途半端な気がした。
(児童書で登場させる)脇役としては複雑すぎる人だったんじゃないかねえ。
この人を納得出来るくらいに書くとしたら、主人公に据えるしかなかった気がするが。
ジプシャンだって、1作目でああいう関わり方をしたのなら、3作目でちらっとしか出てこない
というのは納得できない。イオレクと気球乗りまではぎりぎり可だが、
魔女たち、しかも種属が違うの、女王がどうのとか細かいところまで設定をにおわせておいて、
ほぼ何にもせずに終わってしまった感がないか。
ロジャーなんかさあ、ウィルと張り合えるくらい、実はかなり重要な役割のはずなのに、
(いかに受け身のキャラとはいえ、彼のためにライラは死者の国まで行くんだぞ!)
キャラクターがほとんど立ってませんよね。えらくバランスが悪い。なんなんだろう。
マローン博士の存在意義がさっぱりわからん。そこがわからないとすれば、ザリフとかも
何のために出て来てるんだか……
天使の設定もあれでいいんだろうか。中途半端すぎると思うのだが。
あと、琥珀の望遠鏡がすっごい影薄いですよねー。そこからして3作目の失敗は
予告されてるんじゃないだろうか。
だいたい敵の顔が見えない。一応教会側が敵なんだろうけど、敵側でキャラクターとして
立っていたのは唯一コールター夫人のみですよ。そのコールター夫人自身が揺れてるんだから、
敵の存在感はほとんどないと言っていい。ま、敵というより危機的状況を乗り越えることが
主眼でもいいが、そうしたら敵を出さずに話を作った方が良かった。
そもそもダストって何なのだ!読み終わっても全然整理された気がしない。
結局、要素が多すぎたんじゃないのー?
それぞれの作品をもっとかっちり線引きするなら、ジプシャンにしても気球乗りにしても
まああんなもんだろうかと思えるが、3部作といいつつ、それぞれの作品の独立性が希薄。
やっぱりこれは1本の長大な話として捉えるべきだと思う。
そうすると、けっこう無駄に出て来る伏線が気になる。
プルマンさん、ずいぶん匙加減間違ってませんか。
複雑な話を、煮詰め切れないまま書いてしまった感がありあり。
設計図引いてないでしょう。だから3作目で、膨大な伏線の回収するため
もぐら叩きのように忙しくなってしまったわけで。
もう少し欲張らずに書けば良かったんじゃないかなあ。いくらパラレルワールドを創造するのが
楽しかったとしてもね。設定を並べているだけでは物語としては食い足りない。
(食い足りないというより、設定だけでオナカいっぱいになってしまう)
でも、ライラとウィルだけを見るつもりで読んだ場合は、けっこう楽しいです。
基本的にキャラクターは文句なく魅力的。彼らの別れには泣いてしまったよ。
ただ、それだけのために各巻600~700ページを読むのは徒労かな。
上下巻くらいでもっと的をしぼって書けば、話としては良かった気がする。
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ま、「指輪物語」だって、1作目の半分くらいまでは設定の山で話はさっぱり動かないし、
基本、長い作品というのは難しいもんですよね。
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