せっかくだからフェニーチェ劇場、とも思ったが、(わかりにくい)ホームページを
見た限りにおいては食指が動く演目ではなかった。
その代わり、ひょんなことから「椿姫」。場所はスクオーラ・グランデ・ディ・サン・テオドーロ、
ちょっと内装の豪華な市民会館といった雰囲気。
チケットの値段が安かったから、どういったものを見せられるものか、
実際に行くまで予想が出来なかった。
行ってみると劇場ではなく、広間に小さな舞台を作って観客の椅子を並べた実にささやかな会場。
それでも人はずいぶん入っており、さほど不安感はない。
ま、ハコ自体は小さいし、だいたいが観光客だろうが。
ヴェネツィアに来て、オペラでも……という俗心がある人が多いということだね。
主役の人は、最初はどこのおばさんが出て来たのか、と思ったがだんだん惹きこまれた。
オペラの声を好きになるのは、少なくてもわたしには若干難しいのだが、聞きごたえのある声だった。
ジェルモンとのシーンは泣いてしまったよ。
実はワタシ、なぜか妙に「椿姫」にはヨワくて……
小説でも映画でも号泣。前世はアルフレードだったのかもしれない。
だがその肝心のアルフレードが……。体型がおっさんすぎ……。
ずんぐりむっくりの頭デカ、ころっとして手足が短い。ついでにひげもじゃ。40代くらいだろう。
雰囲気は、アメリカの田舎の雑貨屋主人かガソリンスタンド店主。人柄は良さそう。
外見で判断してはいけない、という鉄則もあるのかもしれないが、
役柄が何しろ、若い純朴なおぼっちゃんのアルフレードですからねえ。ツライ。
しかも外見の違和感を解消できる演技力がなく、大変大根に見えた。
ヴィオレッタまでが引きずられて、彼とからむとやはりただのおばさんに見えてしまう。
アルフレード、声は別に悪くはなかったと思うのだが、正直うへーという感じでした。
ジェルモンが良かったなあ。彼も外見的には若干そぐわないんだけどね。
ジェルモンは本来、絵に描いたような郷士であろうし、育ちの良さと良識を備えるべき人として
表されている。今回の歌い手は大変目つきが悪く、一見、悪の組織の参謀のような……
でも演技力があったのだろう、ジェルモンという役そのものもけっこう難しい立ち位置だが、
ちゃんとこなしていた。
ヴィオレッタに多少は憐れを覚えつつも娘をダシにして息子との絶縁を迫る、というのは
ヴィオレッタに口先だけの慰めを与えているだけでは実にイヤな奴になってしまうし、
かといってあまりヴィオレッタに同情を表しすぎると行動との矛盾が気になってしまう。難しい。
オペラは何かと共感しにくい演技形態ではあるけれど、共感出来ないよりは
共感出来た方が成功するだろうから、このジェルモンの演技力は大事ですよね。
そしてアルフレードの難しい部分、ヴィオレッタに札束を投げつけるところ――は、
当然アルフレードの演技力が全く足りずに白々しいのでありました。
まあここは……しょうがないかな。誰がやっても難しいんだから。
ヴィオレッタ以外の女役(フローラと小間使いのアンニーナ)をやっていた人が美人だった。
イメージではこの人の方がヴィオレッタに近いのだが。ただメゾらしいので役柄的に無理なのか。
ちなみにヴィオレッタ役の人は映画の「ココ・アヴァン・シャネル」の
エマニュエル・ドゥヴォスという人に雰囲気がとても似ていた。本人じゃないかと思うくらいだ。
アンニーナ役の人が誰に似ているかというと、アングルの「泉」の女。
いや、もっと妖艶さがあるか。さらに似ているものがあったはずだな。なんだろう。
むしろ「グランド・オダリスク」の方に近いか?
外見についてのみ語っていますが、声とかはよくわからん。
しかし期待していたよりしっかりオペラだったので、満足でした。
あ!そうそう、こんな小さな会場のくせに、ちゃんと生演奏だったんですよ。
……だが、演奏の方はなんというかちょっと……もう少しがんばりましょう、ですね。
全部で何人かなあ。20人内外だろうか。
20人内外で「椿姫」を演奏するのもタイヘンだよなあ。一人しかいない楽器が多く、
フルートの一人っていうのはかわいそうだった。
クラリネットか何かだったかな、それは3人くらいいたんだけど、そのうちの一人が
時々音を外していた。ぴぃ、とか言って。「おい!」と内心で突っ込む。
みんな地元の演奏者であり歌手なんだろう。
いいよね、観光客相手とはいえ、地元に活躍の場があるっていうのは。
久々に生演奏を楽しめたし、値段も割安だし、大変満足だった。
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