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◇ マリーア・ベロンチ「ルネサンスの華 イザベッラ・デステの愛と生涯 上下」

著者を責めるべきか、訳者を責めるべきか。

全体的に、面白いことは面白かった。
が、乗り越えられない部分が二点。

まず一点目は(というのは、大学時代の憲法学の教授の口癖だったなあ)、
どこで、誰が、何をしているのかがよくわからないこと。
特に最初の方に顕著なんだけど、シーンが場所も時間もあちこちに飛ぶから、
「ここはどこ?あなたは誰?」状態。なーんとなくこういう場所であり年代なんだろうなーとは
推察されるが、もうちょっと説明しながら書いてくれないかね……。

一人称の小説で、しかも「意識の流れ」手法か?と思ってしまうほど、
非常に主観的に書いているので落ち着かない。
歴史小説に「意識の流れ」手法はそぐわないと思うよ。スケッチ風の短編ならまだしも。

イタリアでは、もしかしたらイザベッラ・デステの一生は誰もが知っている一般常識で、
説明しなくても、人物や場所をちょっと書くだけで「ああ、あのエピソード」と
読者は思うのかもしれない。
例えば織田信長の小説を書くのに、本能寺や明智光秀はある程度知られている事柄だから
あまり詳細に書く必要はないでしょ。
でも日本のわたしは、イザベッラ・デステについて、塩野七生の「ルネサンスの女たち」で
読んだことしか知らないから、この小説に書いてあることだけでは足りない。

乗り越えられなかったこと二点目。
文中に「わたし」が多すぎる……。もちろん全部数えたわけではないが、
多いページだと1ページに18回出て来たことがあった。(「わたしたち」も含む)
最低だと5回くらいだけど、平均10回弱じゃないかねえ。
(今、試みに任意のページを開いてみたら、右ページに19回、左ページ11回)

これはどうなの、日本語として。
そりゃ原文には、イオだのミオだのが山のように出てくるんだと思うよ。
訳者はそれを忠実に訳したんだろう。
が、それを馬鹿正直に訳してどうすんの、と言いたい。

日本語は基本、人称代名詞をわずかしか使わない言葉でしょう。
訳者はそれを考えた上で訳したの?
ま、「わたし」をてんこ盛りにすることで、文章のリズムになっている部分もあるから、
そこを狙った上での話だっていうなら、それは本人の選択ではあるんだろうけど。
ただ単に機械的に訳しただけなら「忠実なブス」ですよ。

イザベッラ・デステの人生をさくっと読ませてくれたことには感謝。
一人称なのでよりイメージが湧きやすかった。
でも一人称の致命的な弱点――神の視点で説明出来ないことで、イザベッラ・デステの
視野の範囲にないこと、あるはずがないこと、は書けないんだよねー。
やっぱりこの部分が歴史小説としてはちょっとツライかなー。

その部分は、一応、謎のロバート・ド・ラ・ポールが担っていたんだろうけど、
彼の立ち位置は立ち位置で相当に辺境だから、あんまり説明役が相応しい人物とは思えない。
話にしっくり組み込まれているかというと、今ひとつだしね。
さらに彼の手紙の文体は鬱陶しい。何もここまでしなくても良い。これは訳者の責か?

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同じ作者が書いたルクレツィア・ボルジアも読もうと思っていたんだけど、
とりあえず今回は読む気をなくした。
まあ、今後何かのご縁がありましたなら……。

コメント

  1. まきこ より:

    ご感想、参考になりました
    最近デステに興味を持ち、この本の存在を知ったのですが、高くて買おうか迷っていたところに主様のこの記事にたどり着きました。

    なんだか残念な感じですね。デステの生涯を映画化してないのかなと思って色々探しているのですが…何かご存じでしたら教えてください。

    追伸:ルクレツィア・ボルジアは読まれましたか?

  2. umeko より:

    注意喚起を伴いつつ。
    記憶力がとみに低下している昨今、4年前というと自分としては大昔なので、
    この本の内容を覚えているかというと覚えてないのですが(^_^;)、
    自分の感想を読むとケチョンケチョンですね。
    でも、最初に“面白いことは面白い”と書いてあるので、どこか見るべきところはあったのかなあ?(今ではすでに不明)

    わたしの独断と偏見に満ちた感想によって判断をなさるとキケンかと思われますが、
    この作品を新品で買うのはどうか、という気がします……。中古か図書館ではいかがでしょう。
    アマゾンでは1つレビューがついていて、それが星5つですので、人によっては面白いのかもしれないです。

    わたしの知っている範囲でイザベッラ・デステについてまとまって読めるのは、本文でも書いていますが、
    塩野七生の「ルネサンスの女たち」のみです。おそらくお読みになったかと思いますが、まだでしたらぜひどうぞ。まとまってといっても、文庫本1冊で女性を4人紹介しているのでイザベッラの部分は4分の1ですが。
    (なお、ルクレツィア・ボルジアも入っている)

    少し検索をしてみたところ、

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    こんなのが出ました。全てわたしは未読です。

    1冊目はニオイとして、そんなに地雷な気はしないですね。
    2冊目はタイトルからして地雷臭ぷんぷんですが、イザベッラ・デステについての小説であることは間違いないし、万が一当たったらデカイかもしれない。これも出来れば図書館かなんかで瀬踏みを……。
    3冊目は、図説だし、決して詳しくはないだろうけど、ふくろうの本ですから内容として読んで安心、見て楽しいと思われます。

    イタリアあたりでは彼女が映画・ドラマに出てこないわけがないし(思いつきですけどお市の方みたいな感じですかね?)
    色々あるんだろうとは思いますが、日本にそれが入ってきてるかというと……どうでしょう。

    マリーア・ベロンチの「ルクレツィア・ボルジア」は読みませんでした。
    ボルジア家関連でフィクションだと、必要以上に背徳的に書かれることが多い気がします。

    ……すみません、はるか昔の“教えて!goo”癖が出て、長くなってしまいました(^_^;)。

  3. まきこ より:

    ありがとうございます!
    充実したお返事ありがとうございます。非情に参考になり、うれしい限りです。

    誠にお恥ずかしながら、「ルネサンスの女たち」すら未読ですので、早速読んでみたいと思います!その他のものは図書館で探してみたいと思います。

    ルネサンスの面白さ、これから勉強していきたいと思います!本当にありがとうございました。

  4. まきこ より:

    Unknown
    ごめんなさい、非情→非常の誤りでした。。

  5. umeko より:

    どういたしまして。
    ルネサンスなら、塩野七生を全部読んで吉です。まあルネサンス以外のジャンルも相当多いですが。
    ただし、「チェーザレ・ボルジア あるいは優雅なる冷酷」は必読。