この間亡くなった遅筆堂さん。
この人が外国に旅行するイメージが全くなかったので、このタイトルを見た時、
「……ほ?」と思った。なんで井上ひさしがボローニャなんだろう。
ま、その疑問はこの本を読んでもあんまり解決されない。
彼は長年、なんだかえらく熱烈にボローニャに憧れていたらしいが、その理由として、
1.若き日にお世話になったドミニコ会の神父さんから。
ボローニャには聖ドミニコ会の総本山がある。
2.彼の中心的興味に「共同体」がある。(「吉里吉里人」なんかはその好例だろう。)
ボローニャは市民の組合活動が実に盛んで、そういう意味での理想郷だった。
3.当時ボローニャのチームに所属していた中田英寿が好きだった?
(逆にボローニャのチームに所属しているから中田に興味を持ったのかも)
……などが読みとれるが、この3つを並べても、彼のボローニャに対する熱情の理由は
今ひとつ掴みきれないんだよなあ。
彼は戯曲家で小説家。“情の人”というイメージなので、あんまり綿密な取材をする方ではなく、
心情で書く人だと思っていた。
が、この本はちょっとしたボローニャのリポートとして、実に読みやすく面白いものになっている。
NHKとのタイアップなので、ある程度路線が敷かれたという部分はあるだろうけど。
ボローニャにはヨーロッパ最古の大学がある。
――ということのみが、この本を読む前のわたしの知識だった。
ただの歴史好きな旅行者である自分の目には、
イタリアといえばローマ時代の遺跡や美しい街並み、ルネサンス美術、
まあせいぜいがとこ地方料理までしか映らない。
現代イタリアについての興味は全くといっていいほどなく、
大上段に構えたイタリアの現状などの本は読む気がしないので、
こういう、ちょっとした旅行記とちょっとしたリポートが融合した形式は楽しく読めた。
「左派の本拠地」であるとか「小型精密機械」の産地であるとか、
文化による町の再生を掲げた「ボローニャ方式」で有名であるとか、そういったことは
この本を読んで初めて知った。
わずかな時間でやりくりして、インタビューを多々試みているようで、
概説ではない生の声と表情が伝わってくる気がする。
イタリアは概して「わが町」愛が熱いところではあると聞くけれど、この本では
「我々はボローニャが好きだ」「みんなで力を合わせてがんばっていくんだ」
……市民たちのそういう思いがページに溢れて、なかなか感動的。
それは井上ひさしによって増幅された感情なのかもしれないけどね。
恋文。でしょう。ボローニャに対する。
小品なので、彼のファンはむしろ飽き足りない思いを抱くかもしれないが、
これはこれでいいバランスだと思う。恋文をあまりディープに書かれても辟易する。
いい本だと思った。
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