池澤夏樹推薦。彼のお薦めで「素直に面白い」というのは、経験上ほとんどないのだが、
これは素直に面白いエンタメ小説。
サスペンスらしいので、コワイのかとびくびくしていたが、別に怖くはなかった。
なんというかな、ゆっくりじっくり読んで面白い。
これは登場人物が過不足なく書かれているせいかも。
ストーリー自体は、息もつかせぬというほどでもないし。
2段組で530ページなので、むしろ一気に読もうとするとちと骨です。
でも下手すると4日かな、と思っていたのが2日だったのだから、かなり読みやすい方。
特に翻訳ものにしては。訳者(←内田昌之)エライ。
素直に面白く、まあそれだけの話なのでそんなに語るべきこともないのだが、
ちょっとだけ気になったことが。
これは、ネット上の仮想空間が大きな意味を持つ話なのね。
殺人事件の被害者たちと主人公は、ある(高額の参加費を必要とする)仮想空間の会員になっていた。
そこでは自分とは別の存在になり、別の人生を楽しめる。
殺人事件が起こり、結局手掛かりはその仮想空間にしかない。現実には存在しないその場所で、
彼らは犯人を追いつめ、掴まえることが出来るか?――という話。
小説の中で、この仮想空間の説明もわりとしっかり行っている。
気になったのは、この本がアメリカで1994年発行だということ。
そして2010年の今読んでも、古いと感じずに読めたこと。
それって、パソコン関係としては相当じゃないだろうか。
15年のネット上の変化っていったらすごいですよ。15年前だと、わたしは自分のパソコンを
持ってないし、ブログなんちゅうもんもなかったし。
サイト作成をぽつぽつ一般人もやり始めた頃だろうか。
仮想空間はいまだに利用したことがないので現時点での状況もよくわからないが、
当時もおそらくどっかにはあったんでしょうね。
でも今と比べたらシステムもグラフィックもかなり稚拙なはず。
だが違和感なく読んだ。ということは、
1.日本はアメリカより15年程度ネット状況が遅れている?
2.著者が(15年分とは言わなくても)先見の明がある?
3.わたしのパソコン関係の知識が世の中よりだいぶ遅れている?
4.時が経っても古びないように、描写と設定が秀逸?
どれが正解だろうなあ、と思って。
わたしの売りがパソコンに詳しいということでは断じてないから、3も大いにあり得る。
実際、仮想空間を楽しんでいる人にとっては、本作で「システム上のすごいこと」として
描かれているあれこれは、当然のことになっている気がする。
そうすると多分古さを感じたりするんでしょう。
こんなわたしでも、何だったかなー、たしか岡嶋二人のコンピューターがらみの作品を読んで、
「コンピュータ関係はすぐ話が古くなって難しいなあ」と思ったことがあった気がするし、
それは宮部みゆきや東野圭吾でも感じたことがあったはずだ。
その難しいことを15年もクリア出来ているこの作者は、やっぱりエライなあ、と
褒めてあげたい気がする。
まあそれだけの話です。破綻のない、落ち着いた話を読みたい人にお薦めする。
あ、でも結末は「こんなのアリ?」と呟いてしまうかもしれないという意味では破綻かなー。
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主要人物として刑事が2人出て来るんだけど、この二人組のどっちがどっちか
なかなか定着しなくて困った。
クレイトン・ソンダーズがどっちかいうと部下(部長刑事)で黒人、勘が鋭く、
パソコン関係もまあ少々受け入れられる。柔軟性有。
ノーラン・グロボウスキーは警部補で白人、かなり頑固でパソコン嫌い、しかしまあ優秀な刑事。
クレイトンの方に公平に長所を分配したからこそわかりにくくなった気がする。
少々不公平に見えても、ノーランを贔屓にしても良かった。
だってこの人、けっこうすぐ主人公と恋仲になる(あまり重大な意味を持たない
ネタバレだからいいでしょう)役柄だから、クレイトンより目立たせた方がわかりやすかった。
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