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◇ 加納朋子「ななつのこ」

わたしは北村薫が好きだ。相当に、と言ってもいいほど。
あ、でも「冬のオペラ」と「円紫さんと私」シリーズ限定ですけどね。
その他は相当に、というほどではない。まあ全部読んだわけでもないけど。

一般的な評判として、加納朋子は北村薫に似ていると聞いていた。
「北村薫が好きだったら加納朋子も好きでしょう」という言われ方もする。
それに誘われて、何度か平積み本に手を伸ばしてみたのだが……
その度に、どーも食指が動かなくてなー。
ぱら見したのは「魔法飛行」だったろうか。冒頭、手紙から始まるやつ。
「螺旋階段のアリス」は立ち読みでわりあい長めに読んだと思ったけど、それでも駄目。
どの辺が北村薫なのかがよくわからなかった。日常の謎系のミステリではあるだろうけど、
そういう作家は他にいくらでもいるしなあ。

という経験が何年も前にあって。
こないだ「ガラスの麒麟」を読んでみた。正直、いまひとつ。病み系の話は好きじゃない。
引き続いて疑問。どこが北村薫なのか?

今回「ななつのこ」を読んでようやくわかりましたよ。

こ れ は 北 村 薫 で す

はっきり言うたらそのまんまやないか。
名前は変わっているし、登場人物はこっちの方が多少多いけど、枠組みが一緒。
読んでいる時点ではどっちの出版が先かわからなかったから、えええ~と思いながら読み進む。
これ、どっちが先でも言い逃れ出来ないほどパクリだよ。
こっちが後だとしたら、よく鮎川哲也賞を取らせたな、審査員……。

読後、加納朋子のWikiで「ななつのこ」は北村薫に送るために書かれた作品だと知る。
……う~~~~~~~ん。
どーなんでしょーか、それって。なんか非常に複雑な気分。

いや、あの。

ある作品が好きで好きでたまらない人が、その世界を求めて別な話を作っちゃうのは理解出来る。
でも通常だとそれは二次作品と呼ばれて日の目を見ないよね。

これは一応名前や細かい設定は違うから、二次じゃないと抗弁出来るかもしれないが、
北村薫が通常の神経を持った人だったら、これを読んだ時点で「ん?」と思うだろう。
盗作だと言っても無理のないレベルだと思う。

が、北村薫は、自分のファンが書いた、いわばオマージュに敵意を表現は出来なかったろう。
彼は(ある程度いい意味で)教師根性の持ち主であろうから、物になるかもしれない素人を
つぶしてしまうことを躊躇したのかもしれない。
正直、「ななつのこ」の文章は読んでいて時々躓く。でもまあ加納朋子はその後も書き続けているし、
好きな人もいるようだから、北村薫が黙認した(?)甲斐はありそうだ。

本人である北村薫が文句を言わないんだったら、わたしが言ってもねえ……。
この作品自体は(作為はありすぎるけれども)まあまあ面白い作りだとは思うし……。
わたし自身はそれほど好きにはなれないかもしれないが、書いたらあかん作家というわけでもないし。

すっきりしないものは感じつつも、まあ、いいのかねえ……。すっきりはしないが。
個人的には、今後いい作品を書くことでその出発点の疑問を補って欲しいですね。
縁故入社は人の倍がんばれ、という意味で。

もう何冊か読む予定。

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