中野翠は何冊か読んで、すっかり食傷した。
1冊目の「ふとどき文学館」は野坂昭如や久世光彦との対談部分に
多少の面白さを感じたのでそれほどでもなかったが、
その後読んだ「千円贅沢」にも、「ともだちシネマ」という対談本にもほとんど内容がなく。
なんなんだ?と首を傾げていた。
そして今回の「会いたかった人」でほとほと……。少々怒りも感じた。
鹿島茂推薦ってことで、最後の藁だったのになあ。
「会いたかった人」を読んで感じたことは。
どれだけ自分にしか興味がないねん!!
……いやもう。読んでて辛かった。
この本は中野翠が「会ってみたかったなあ」と思う人を短い紙幅で語っていくという趣向で、
(タイトルそのまんまの紹介ですな)ジョージ・オーウェル、樋口一葉、ココ・シャネル、
五代古今亭志ん生など総勢29人。有名・比較的無名取り混ぜて、
とりあげた顔ぶれはバラエティに富んでおり、まあまあ興味が持てるものではあるんだけど、
なんでこんなにつまらないだろう……。
一番気になるのは。
「私ってこういう人だからさ」ということを延々と語り続けている点。
いや、文章に書くにあたって、自分を避けては通れない。自分の興味のあることを
自分の頭で考え、選び取った表現として文字を並べる。つまりあらゆる文章は、
自分がなければ成り立たない。逆に、どんなに本人にその気がなかろうと、
自分を書かずに文章は書けない。
……が、この人の場合、なんといったらいいか……
主眼が「いかに私は対象に興味を持ったか」「対象は私にとってどんな存在か」を
述べることにおかれ、対象についての情報はかなり薄い。
1人あたり正味6ページではあまり有用な情報も盛り込めないだろう、ということを
加味するにしても、単なる情報という意味で言ったらwikiの方がなんぼか有用。
それでは彼女が力をこめて(?)述べるところの、「対象と自分の関係性」が
読んで面白いかというとそんなことはなく……。
この部分が面白ければ、当然それは芸ですからわたしが文句をつけるスジアイではないのだが。
この程度の内容ならば、素人ブロガーに任せておけ!!
そう叫びたかった。ショーバイニンはもっと内容のあるものを読者に提供してくれ。
これでは、興味対象を同じくする仲間内で「ねえ、聞いて聞いてー。私思うんだけどさー」と、
相手に“聞いてもらう”程度の話である。それになぜ金を払わねばならん。(払ってないけど。)
もう少し芸力をつけようよ。もっとも、ここまで素直に「私が、私は」と書けることは
彼女の天衣無縫ぶりというか天真爛漫ぶりを表しているので、
友だちとして気持ちのいい人なんだろうなーという気はする。
だが、読者としてはオトモダチとしていい人よりも、面白い文章を求めたいぞ。
wikiで中野翠の項目を見ると、ちょっと笑える。
たった数行の文章内で、いかに「自分語り」に関連する表現が多いことか。
wikiならば普通は行動のエピソードが書かれるものなのだが、
中野翠の項目では「彼女によると彼女はこういう人間である」という紹介が多くなされている。
もちろん中野翠本人とWikiの書き手には直接の関係は全くない。
だがもしこれが底意なく書かれた文章なら、はからずも彼女の文章の特徴を表していると言えるし、
胸に一物あってこういう紹介をしているのなら、わたしは書き手に同意の笑みを送りたい。
やれやれ。
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