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◇ 村上春樹「羊をめぐる冒険」

わたしの村上春樹体験は、はるか昔に「パン屋再襲撃」と「カンガルー日和」を読んだことに尽きる。
村上春樹ファンの友人の家で読んだ。
もっと正確に言えばその後エッセイを2冊くらいは読んだ記憶があるのだが、
ちょっと気取った普通のエッセイという感想。そうかヤクルトファンか、と認識した程度。

多分彼の最初のベストセラーは「ノルウェイの森」であろうと思われるが、
……ベストセラーになった時点でわたしの好意は基本的に減ずるので、
(これも我ながらどうかとは思うんですけどね)
その後は全て横目で見て通り過ぎていた。ベストセラーはわたしの守備範囲ではない。

が、近年は世間的に相当村上春樹株があがっている。
エルサレム賞受賞。その際に何だか物議をかもしたことは記憶に新しい。
ノーベル賞にもノミネートされ……って、あ、ノーベル賞ノミネートは単に噂ですか。
海外でも評価が高い。現生生物で一番有名な日本人作家と言ったら彼だろう。

いや、ほんとにそこまでいいのか?と思い、今回初期の作品を読んでみた。
昔読んだ短編集は奇妙な味わいが面白かったが、そこからノーベル賞がどうしても結びつかず。
アレからどんな道のりを辿ってこの状況まで来てるのか。……ねえ?

そういう場合、最近作を読むべきなのかもしれないが、何しろ「1984」は
目下アホみたいに売れている=図書館では借りられない。
処女作には作家の全てがあるというし。とりあえずファンの間でも評価の高い
(と、ネットで調べた限りでは思った)羊三部作を読んでみよう。

羊三部作。
「風の歌を聴け」
「1973年のピンボール」
「羊をめぐる冒険」

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……。わかりません。

どこが面白いのか。
どこが評価されているのか。
この後コペルニクス的転回が起こって、何かものすごいものに化けるのだろうか……。

新しいんだろうな、とは思う。
ただ、わたしは別に新しさを諸作品に求めないので……。
正確に言えば、新しいがゆえに面白いと思うことは皆無ではないが、
面白いと思える新しさではなかったということ。

「ねえ、十年って永遠みたいだと思わない?」
こういう台詞を読むとカユイんです。
キャラクターがキライ。ふわふわした男がふわふわした女と出会い、
何となく意気投合し、何となく寝て、いつの間にか別れて。
いい気なもんだね、と言いたくなる。“なんとなくかっこいいこと”が美点なのか?

男も女も、全てが同じ根っこから出ているような同一人物。
これは大江健三郎を読んだ時にも思いました。登場人物が大江健三郎の右手と左手。
そんなに同じ言葉で語れる人なんているはずないのに。
リアリティを追求しろ!とは言いたくないんだけど、
キャラクターの成分があまりにも同一で、うへーと思う。
餃子の形だけ変えたって、中身が全く同じなら食べ続けるのに飽きるんです。
これが純文学だというわけなのか。

まあ最初から人気作家に対する偏見があるわけだし、
わからない奴が村上春樹の良さをわざわざ理解する必要は、ないと言えばない。
が、このままでは化かされている気がして仕方ない。

“ふだん本を買わない人が買うからこそのベストセラー”……それは事実だと思うけど、
そううそぶくだけで終わらせるには、身近にいる(いた)村上春樹好きは、
それなりに本を読んで来た人たちだった。
読んだ数と読書力は完全に正比例するものでもない。
だが時間が止まるものでない以上、人は変化するし、量を読んだことによる変化は確実にあるはず。
ゆえに、読んで来た人たちに訴えかける魅力をわたしは知りたい。

もうしばらく読んでみる予定。

羊をめぐる冒険(上) (講談社文庫)
村上 春樹
講談社
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あ、この本で面白かったところは、純粋に謎解きが一歩進むところ。
ホテルに羊博士がいることがわかる場面と、鼠が死んでいることがわかる場面。
しかし、なぜ鼠が死んでいるのか、死ななければならなかったのかはさっぱりわからない。
そんなに羊に色々詰め込まれてもなあ。騙されている気がする。

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