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◇ 豊由美「そんなに読んで、どうするの?」

読者が本を“食べる”としたら、書評家は盛り付け人。
まあ盛り付け人という職業はなかろうし、書評家本人には別な言い分はあるだろうが。
本来、読者は本をニオイで選ぶ。しかし昨今本屋へ言っても美味そうなニオイがさっぱりしない。
じゃあ頼れるのは何かというと素人玄人関係なく本の感想。つまり盛り付けなんですな。
ここ数年は、ネット上及び書評本で面白そうなのをピックアップして読んでます。

「ほぉーらっ!美味そうだろーっ!」とトヨザキさん。
そんな風に見せびらかされれば、喰いつかないわけにはいかないじゃないですか。
全く迷惑な話だ。この本は540ページで、だいたい250冊を取り上げている。
……これがけっこうな確率で美味そうなのが多く、食指が動いた本を数えると、
(まだ数えてないけど)――50冊くらいいっちゃうんじゃないのか?という勢い。
1冊の書評本で50冊課題図書が増えた日には、困ってしまうんですけど!

わたしがその著者を最初に読む場合は、基本的に「どこの馬の骨が書いた本か」という
大変ナナメのスタンスで読み始める。
じゃあ読むわたしはどこの馬の骨なのか、という話にはなるけれども
何しろ自分は本人ですからね。どこの馬の骨かは自分でわかっている。

この本も横目で読み始めた。最初の方は書き方も軽いし、あらすじメインの記事だし、
取り上げた本もそんなに食指が動く感じじゃないし、
いやー、正直読むのがムダ?と思ったんだけどねえ。
でも前半の日本文学編の終わり頃から、後半の世界文学編の中盤頃まで、
ヒット率80%を超えてるかと思うくらいに次々読みたい本が並んでしまい。
けっこうそそられました。特に世界文学編が。
これを全部読むのか、ワタシは……とちょっと呆然。読むんですかね?やっぱり。

しかし書評家には2段階、クリアすべき場所がある。
その盛り付けで人に食べさせる第一段階。
食べた後「美味しかった」と言ってもらえるかどうかの第二段階。
……トヨザキさんはわたしにとって、どうかなあ。
というのは、この本の中には当然今まで読んだことのある本も何冊かあるんだけど、
その部分を読んでも今一つピンと来なかったから。そんな本だっけ?と思う。
ということはつまり、彼女とわたしはツボが違う。
(読みの未熟さとか言って、わたしは自分を責めない)
だとすると、彼女の文で面白そうと思っても実際面白いかどうかは微妙な気がする。

しかしこの本の最後の付録は痛快だった。
袋とじになっていて、中身は何かと言うと当時のベストセラーのメッタ切り。
「諸君!アホ面こいてベストセラーなんか読んでる場合?(抄)」がタイトルですから。
オトナの事情か何かで元々の原稿を飛び飛びに載せたらしくて、
ページとページのつなぎ目が断線してたりするんだけどさ。
俎上には石原慎太郎「弟」、渡辺淳一「失楽園」、五木寛之「大河の一滴」、326の歌詞?
郷ひろみ「ダディ」等など。全部わたしは読んだことはないのだが――さもありなん、という感じ。
ただし書き方に勢いがありすぎるので、罵り芸でしょ、と言われても仕方ないかもしれない。
これは全部を読んでみたかったもんだ。ここには10ページくらいしかないんだもの。

なお、この原稿を載せた「Title」という雑誌は、渡辺淳一が怒鳴りこんできたことで
(他に数々の要因はありそうだが)廃刊?の流れになったそうだ。

トヨザキさん、ご自分の生活もかかっていることですし、わたしは無責任に行け行け~!とは
言えませんが、適度に頑張ってください。
ま、あとは実際に読んで、ほんとに面白いと感じるかどうかだな。

そんなに読んで、どうするの? --縦横無尽のブックガイド
豊崎 由美
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