天も地も照覧あれ!「ローマ帝国衰亡史」全10巻を読み終わったぞぉぉぉぉ!
……いや、嘘です。読んだわけではない。
眺めた。見た。めくった。そんなレベル。とりあえず目をページに据えて、目は通した。
だってね。
面白くないんだよ!
もう退屈で退屈で。苦行でしたな。最初の1巻を読んだのは2008年の3月だから、
ほぼ2年かけて10巻。とにかく「えらいぞ、自分!!」と褒めてやりたい。
褒めるほどちゃんと読んだわけではないけど、眺めることに意味があるのかという疑問はあるけど、
まあこの労力に対して褒めさせて。
今、自分の読後感メモを10巻分読み返したらけっこう笑えたので、それをそのまま転載する。
それほど大部ではないだろうと思い、実物を見て、面白くなさそうでびっくりし、
だが読んでみると見てくれよりとっつきにくくはなく、それなりに面白かった。
でも1冊よむのに6,7日かかる。(第1巻)
やっぱりこめんどくさいぞ。面白くない内容ではないんだけどさあ。(第2巻)
後半のユリアヌスのところは面白かったなあ。政治的にはべたぼめじゃん。
が、宗教的にはかなり厳しく書いている。しかしギボンという人も、
キリスト教に対する見方厳しいね。昔の人が、こんなに公平な
見方でギリシャ宗教とキリスト教を見ていたのは意外。(第3巻)
ユリアヌスが死んじゃったよう(T_T)。……それより、訳者の中野好夫がこの段階で
死んでしまったらしい。4巻自体はほぼ完成していたらしいけど。
この巻の訳者あとがきは朱牟田さんが書いていて、彼が故人の遺言により
5巻と6巻を訳出するらしい。(第4巻)
今回からまるまる朱牟田さん。これでようやく半分か。先が長いなー。(第5巻)
うーん、やっぱりけっこうつらいっす。特にこの辺りになると小粒感ありありで、
登場人物の名前にもほとんど心当たりがない。(第6巻)
ううう。あと3冊。(第7巻)
いや、ツライ……。目がすべるすべる……。(第8巻)
うう……。あと1冊……。(第9巻)
終わったぞぉぉぉぉ!……ツラかった。ほんとにツラかった。
が、この最終巻はコンスタンティノープルの陥落と教皇史が少々まとまって
書かれていたので、少しは読みやすかった。(第10巻)
5巻あたりでふと、我に返っていることが窺えますね。
来し方と行く末を顧み思いみて、途中で「止めようかな……」と思ったこともあった。
そう。3巻くらいまではね。まあ読めたのだ、普通に。
それは物語的に読めたから。紀伝体というとちょっと違うんだろうが、
登場人物もある程度キャラクターがつかめる程度に言及されていたし、
出来事の起承転結をひとまとまりにして書いていた。なので読みやすかった。
が、5巻も過ぎてくると、6巻の感想でも述べているが、登場人物は聞いたことない人ばっかりだし、
ギボンでさえもその人物について肉付けする材料を持ち合わせていないらしく、
誰々の息子の何某、とか西の副帝の何某、とかだけで、人物についての説明がほぼない。
つまりはのっぺらぼうのまま、名前だけが記号として書かれるわけで、
それが細切れの事績とともに叙述されるだけだと、もう――年表を文章で著されている状態。
年表なら年表の方がまだわかりやすいのに、それを文章で説明するので、
だらだらだらだらと話が続く――ということになる。
あまりポピュラーな例えじゃないけど、古事記においては、イザナギイザナミ以降は、
読んでいて面白いでしょ。物語として読めるから。
でもその前の、あめつち初めて開けし時、から神代七代までは単に神々の出生と死が
だらだらと書いてあるだけだから、それがずっと続くとなると辛いでしょ。
「衰亡史」の5~9巻は、そういう辛さ。あーもー、この羅列のみの文章をやめてくれっ!
ところで、この文庫全10巻。訳者が3人変わりました。
1巻~ほぼ4巻までが中野好夫。
4巻ちょこっと~6巻の多少?が朱牟田夏雄。
6巻付近~10巻までが、中野好之。
中野好夫さんは名訳者と言われた人。ライフワークとしてこの翻訳に取り組んだのだろう。
だが残念ながら、志半ばでお亡くなりに。無念だっただろうな。
……しかし単行本の第1巻が1976年に刊行ということは、1903年生まれの好夫さんは、
その時点で既に73歳なんですよ。1年に1巻ペースでいっても84歳までかかる。
(単行本は11巻で刊行されたはず。)
好夫さんよ、今さら言っても仕方ないが、
念のためもうちょっと早めに取りかかっておくべきではなかったか……
で、朱牟田さん。この人も有名な英文学者。
あとがきで書いてあったと思ったんだけど、好夫さんが亡くなった時に、
「この仕事は朱牟田さんに引き継いで欲しい」という遺言がたしかあったんだよね。
おそらくは公私ともに関係があったのだろう、よんどころなく引き受けなければならなかったようで。
だが何しろ、朱牟田さんも好夫さんとはほとんど同年配で。
5巻の刊行時80歳を超え。この方も6巻途中でお亡くなりに。
そして、残りを好夫さんの息子の好之さんが翻訳した、と。
この経緯自体は、翻訳を通じた男たちの友情と執念をそこはかとなく漂わせて
なかなかいい話だと思うのだが、微妙な気分になるのは、
1巻から3巻までは面白いと言って良い本だったのに対して、それ以降の退屈さが顕著だから。
それは原著の内容からしてそうなのか、それとも訳者の差なのか?
基本は原著もそうなんだと思う。何しろ衰亡史なわけで、一つの国が活力を失って行く間には、
それほど英雄たり得る人も出てこないでしょう。つまり小物によって歴史が作られていく。
年表の羅列になるのも仕方ないかも。
……が、多少、訳者も関係しているのかもしれないなあ。
そういう内容だからこそ、もう少し読みやすさを考えて欲しいものだが、
一文が5行にわたる和文とかもあったもの。だいたい、あとがきで見る限り
好之さんは日本語で書いたものも翻訳調が強い。
まあでもとにかく。おつかれさまでした、と。
訳した労力に。ページをめくった労力に。
そして、今後「ローマ帝国衰亡史読んでみよーかなー」などと考えている殊勝な人がいたとしたら。
……よほど好きな人は別として、全10巻は読まなくてもいいと思います。
塩野七生の読者程度じゃ、多分退屈する。
読みたいなら、今は普及版と銘打った上下巻の新訳も新書で出てるそうだし。
(評判はあまり良くないようだけれども。)
むしろ、これがいいんじゃないかな。
これも593ページで、1冊としては相当に大物だけど、
文庫10巻文字びっちり(2ページ見開きの間に改行すらなかったりする)よりはましだろう。
わたしはこっちはまだ読んでいないけど、近いうちに見てみようかな。
(そして読んだ感想はこちら。)
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