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◇ 三島由紀夫「仮面の告白」

初三島由紀夫。

うーん。最初にこれを読んだのは、少々失敗だったかもしれない。
思いっきり自伝として読んだのでね。フィクションは入っているにしろ、
そこに書かれた心情は三島のものだと信じる。とすると、あまりに作家本人にべったりの
入口から入ることになるので、作品との正当な距離が取りにくい気がする。
先に「金閣寺」を読むべきだったか。

つい先日読んだ本(池澤夏樹の「読書癖1」だった気がするが……)に、
誰だかが言っていたこととして、「今まで話したことがある人間で(作家で?)ものすごく
頭がいいと思った人が2人いる」という話が載っていた。
誰が言ったのかも忘れた。2人のうち他の1人が誰だったかも忘れた。
しかし1人は三島由紀夫だったと思う。
「我々が10分かかっておぼつかなく喋るようなことを、三島は3分間で理路整然と
無駄なく話す」という言い方をされていたような記憶がある。

そのせいなのか、この小説を読んでの感想は「頭がいい」。

わたしの三島のイメージは、とにかく何だかわからないけど自衛隊で切腹して死んだ人、
自己愛の強い人、注目を集めなければ気が済まなかった人、というイタイ人。
各方面から文句が来そうなイメージだが、よく知らないので仕方がない。
そのわりには文学史上では、三島が、三島が、と言われているので不思議。
そういうイタイ人が書いた作品はどんなんだろうと思っていた。

いや、でも想像よりもずっと明晰でした。
「仮面の告白」は――自分(主人公)の同性愛指向を中心に据えた、幼年時代から青年期迄の半生記。
そういう粗筋も知らずに読み始め、途中で「これは苦手な分野かもしれない……」と思ったが、
この内容のわりに面白く読めたのは、明晰な文章の力ではないかと思う。
もっと綺羅綺羅しい言葉づかいの人かと思っていたのだが。
使う比喩に多少大袈裟なものはあるけれど、それを繋ぐ言葉は硬質。
無駄がないというのとも違う……確実な構造物の確かさを感じる。
ちょっとやそっと押しただけでは動かない安定性。

しかしこの一作では、正直そこまで文学史上の巨星なのか、という疑問は感じた。
読みやすかっただけに、なんというか、おそらく巨星には付きものと思われる得体の知れない
エモーションとイマジネーション――それは往々にして頭のない竜のような奇怪な姿をとる――が
あまり感じられなかったから。
いや、わたしは頭も尻尾も揃った竜の方が好きですよ。が、ノーベル賞を取るような作品をみると、
わけがわからんものが多いでしょう。

と、歴代ノーベル文学賞受賞者を数えて9人しか読んでいないわたしが言ってみる。
しかも1冊だけしか読んでない作家がほとんど。……あれ、でもヘッセとかショーとかは普通だな。
川端康成も、真価は不明だが別にわけわからんものではない。
……大江健三郎が特別なのか、わけがわからんのは。

三島の作品を全然受付ない人もいるらしいね。
たしか池澤だったと思ったんだけど、数ページしか読めなかったと言っていた気がする。
うーん?文章的にはそれほど特異か?癖があるかなあ?普通な気がする。
内容的にはね。受けつけない人はいるだろう。
わたしも同性愛の話をじっくりと語られるのは――観念的な書き方ではあるにしても、
特に食事時の読み物としてはツラかったもの。

今回は「意外に読みやすい」という驚きと「こんな人か」という納得で
終わってしまったので、次でどうなるかというところかと思う。
次は金閣寺を読んでみる。これも執着の話なんだろうなあ。

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