赤瀬川さんは好きでけっこう読んでいるし、この本もなかなか良かったけれど、
彼はわりあいに際限なく原稿を引き受けちゃう傾向があるので、マンネリ化しがちなんだよね。
あるジャンルを書き始めてしばらくすると、時々外れがあります。
だが、特異なジャンルを見つけ出す才能はすごいと思う。
トマソンしかり、ステレオ写真しかり(これは世間的にはそれほど流行らなかったか?)、
新解さんしかり、老人力しかり。そして近年の赤瀬川さんは正統派美術に立ち戻っているようだ。
もちろん商売という部分を全く考えないわけではないんだろうけど、
基本的に赤瀬川さんは、自分の興味の方向に素直に向き合っている人に見えるので、
そこは安心出来る。が、ここへ来て実にスタンダードな正統派美術に向かっているということは、
……年ですね、ゲンペーじいさん。72歳だからなあ。
しかしwikiを見ると、この人って……捉えどころのない茫洋とした存在。
「トマソン」以降しか知らないわたしにしてみれば、
前衛芸術家で、その過激さゆえに前科持ちにまでなった激しさは全く想像出来ない。
だって文章を読んでもさ。そこに現れ出でたるは、気の弱そーな、人の良さそーな人格。
そりゃ個性が際立っているのはわかるけど、その個性の際立ち方も、
実に微妙なキワダチ方で……。際立っていると感じさせないキワダチ方。
ってか、それで際立ってると言えるのか?
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2,3年前に買った、ちくま文庫の「日本美術応援団」はまだ積読の山の中……。
ここ1年、あまり風邪とかひいてないからなあ。あと20冊後くらいなので、
このペースで行くとあと3年後くらいに読むことになるだろう。
なので、赤瀬川さんの正統派美術分野としては1冊め。……あ、違うわ、2年前に
「名画読本 日本画編」というのを読んでる。これは1993年発行だから、
近年という言い方は苦しいか。
この本は、美術エッセイとしては定型の、一つの作品を写真付きで取り上げて
それに対する文章を書く、という内容。
もっともらしい(赤瀬川さんらしい)前書きを読み、
はいはい、と思いながら最初のページを見て、「……ほ?」と思う。
最初に取り上げた物件(←赤瀬川さん風の言葉づかい)が「薄桐紋蒔絵扉」。
えー……。知ってます?みなさん。ピンと来ます?この物件名で。
これは何かというと、京都・高台寺にある、ねねの霊屋だそうなんです。
その霊屋の扉。薄デザインで蒔絵。
天下のグーグルで検索しても、10件しか引っかからないんですよ。
しかも全部?が、この本関係の言及!
これを100回の連載の最初に持ってくるか……。
普通はもっとメジャーから攻めるよなあ。
取り上げた物件的にインパクトがあったのは、
薄桐紋蒔絵扉(高台寺)←たしかにキレイなの。すっとしてて。
奥州安達がはらひとつやの図(月岡芳年)←月岡芳年はいいとして、その中でこれかい……
変わり兜(各時代)←前立に巨大伊勢海老……。直江兼次の「愛」なんか目じゃないぜ。
旧江戸城写真帖(幕末)←キレイキレイな江戸城のイメージが覆された。あれでは廃墟だ。
横浜巌亀楼上(二代歌川広重)←びっしり貼られた扇面の強烈さ。
浮世柄比翼稲妻鈴ケ森(絵金)←町の祭りの紹介番組は見たことがあったが、1枚で見ると強烈。
長崎大殉教図(ローマ・作者不詳)←どうやってこの情報量を保存したのか。
五百羅漢坐像(松雲元慶)←夜は絶対動く。
泰西王侯騎馬図屏風(サントリー美術館他)←ほんとに描いたの日本人ですか?
以上が、ページをめくって、う。と思った物件群。
そういえば、以前NHKで「日本美ナンダコリャこれくしょん」という番組を作ってましたねー。
雰囲気はかなりそれと近い。めくって驚きがあるというのはいい本です。
この本の売りは当然ラインナップだけじゃなくて、赤瀬川さんの文章も。
やっぱり独自の視点という意味では最強。(は、いい過ぎか。)
何しろ前述の1作目を「高級な、チョコレートのような感触である」と書き始めるんだから。
もう蒔絵=チョコレートという図式が定着してしまいそうだ。
このヒト、けっこう比喩に食物を使うんですよね。
……はっ!わたしはもしかして影響を受けてるのか?
赤瀬川さんの、いかにも赤瀬川という文章を挙げておきたいところなんだけど、
すごく引用が多くなりそうなので止めておきましょう。
読んでいて、時々、うーむ。と思いますよ、やはり。
いい意味で。
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