池澤推薦の本で、「西洋文明の優勢はどこから来ているのか」を書いた本だというので、
飛びつくように読んでみたのだが、期待したほどの内容ではなかった。
もう少し結論部分を前面に出して欲しいというか。なんか羅列部分が多くて。
(検証部分というべきなのかもしれないけど、あまり興味を惹かれなかったので羅列と感じた)
300ページ超の上下本。ちょっとだらだら感があった。
羅列部分は印象に残らなかった。この辺りをしっかり頭に入れるためには、
わたしの頭ではメモでも取らないと駄目だろう。
が、趣味で読む本にそこまでする気にはなれない。
さくっと読んで、記憶に残る程度に納得出来たことをメモ代わりに。
ただし、厳密に読んでの理解ではないから、精度はない。
この人は学者らしく、断定しない(場合によっては“しなさすぎ”を感じることもある)ので、
著者にとっては迷惑なまとめかもしれない。
狩猟採集生活と農耕民がはっきり2つに分かれたわけではない。
どちらに比重を置くかという、色々なバリエーションがある。
ただし、狩猟採集生活と農耕生活では、同じ面積における養える人口は10倍~100倍違う。
養える余剰人口(富)が、戦士や王になっていった。
農耕は世界各地で独自に行われたケースも少数ながらあるが、
大部分は肥沃三日月地帯発祥。それは、人種的な差異のせいではなく、環境的な要因と考えられる。
地中海性気候で、穀類、豆類などの一年生植物に向いていること。
栽培化しやすい野生種の数が圧倒的に多かったことと、多収穫可能な種類だったこと。
自殖性植物が多く、都合の良い突然変異の種保存が比較的容易だったこと。
家畜化も栽培化に準ずる。ユーラシア大陸は最大の大陸だけに、動物自体の種類も多く、
家畜化しやすい種が多かった。家畜化しやすい要因として、
大量の餌を必要としないこと。
成長に時間がかかりすぎないこと。
人的管理下での繁殖が可能なこと。
性質が兇暴でないこと。
性質が神経質でないこと。
群居性であること。
ユーラシア大陸が東西に長いこと。
作物の生育状況は経度変化より緯度変化に対して、より対応が難しい。
ゆえに伝播は東西方向に容易で、南北に難い。
また(主に南北アメリカ・アフリカサハラ砂漠以南と比較して)地勢上の障害が少なく、
人々の移動自体も容易だった。
そのためユーラシア大陸では、作物増、家畜数増、余剰物資増の結果として
人口増のスピードが速かった。
病原菌はエサである家畜、人間が多い場所に発生する。
ユーラシア大陸から他大陸に伝播した伝染病は多いが、逆は少数の未確認物件を除いて皆無。
伝染病はまずユーラシアで猛威をふるったが、言葉を変えて言えばその時生き残った人々と
その子孫は免疫を獲得したことになる。ピサロ、コルテスに先立って
病原菌はアメリカ大陸に入っており、人口の激減を引き起こしている。
また、発明の才、あるいは技術の利用も人口が多いことと関連する。
技術を発達させる、改良するというのは競争原理が働くところで起こること。
人々が少人数のまま、孤立して過ごしていたところでは、新技術も発達しなかった。
わたしは日本人だから、日本についての言及が印象に残ったが、
日本で戦国時代に数多く使われた鉄砲がその後無くなってしまったのは、
外との交流が無かった上に、戦も無かったからだそうだ。
――ほぼ知識がない状態では批判的には読めない。ので、素直に読んだつもり。
他にもニューギニアの話とか、ユーラシア大陸と南北アメリカの対比とか、
いろいろ書いているんだけど、それは直接テーマに結び付かない気がした。
つまりこの本ではっきり言えていることは、「ユーラシア大陸ではなぜ人口が増えたのか」
ということと「人口が増えるとこういう点で有利になり力を持つ」ということのみであると思う。
わたしはこの2点は納得出来た。後者については「可能性」であるけれども。
が、では同じユーラシアで、西洋と東洋はなぜこれほど方向性が分かれたのか、
ということについてはエピローグでほんのぽっちり言及されているだけ。
ちなみに、ヨーロッパと中国の差は、
「ヨーロッパが(自然環境が原因で)適度に分裂しており、競争原理が有効に働いたため」
「中国は平原で、統一した支配者がいたので、新技術を取り入れる方向に向かわなかった」
という見解。その例として、コロンブスが船出の許可を得られたのは、
ヨーロッパ各所の貴族・王侯のうち5回目に頼んだスペイン国王によってだ、ということと、
中国では(多分鄭和の)西への船団派遣を時の皇帝が中止させたから、ということを挙げている。
――なんか安易ではないか。
地勢に根拠を求めるのは、少なくとも人種特性に原因を求めるよりは妥当な気がするのだけれど、
しかし移動における地勢の難易レベルが客観的に設定されていないので、うさんくさい。
南北アメリカにはジャングルや大乾燥地帯、アフリカにはサハラ砂漠があって移動が困難ですよ、
と言われればある程度は納得出来ないことはないけれども、ユーラシアにだって
タクラマカン砂漠や崑崙山脈やヒマラヤがありますよ、といいたい。
結局、公平な書き方を心がけているほどには、客観性はないかなと感じた。
ただ、専門内でしか書けない学者の中で、かなり広い範囲から見られているとは思うので、
その方向性はいい。ただし、もっと知識を深める必要がある。
そこまで一人の人間がやるのは厳しいかな。
草思社
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