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◇ ローレンス・ブロック「酔いどれ探偵マット・スカダーシリーズ」

去年の暮れあたりから読み始めたシリーズ。
あれっ、まだそんなもんか?2年近く読んでるような気がするが。
1作目「過去からの弔鍾」から16作目の「すべては死にゆく」までようやく読み終わった。
ハードボイルド?サスペンス?ビターな……ビタースウィートな味わいの私立探偵物。
これはお気に入りだった。

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おそらく「すべては死にゆく」が最終巻ではないかと思う。話の作り的に。
今まで出てきたゲスト(大抵故人←殺人被害者だが……)の名前がずっと羅列されてたし。
16作という長丁場のわりに、高低ありつつもずっと面白く読めているので、
終わりとなるとちょっとさびしい気がするが、まあ作者も70歳だしね。
1976年から書き始めたシリーズを閉じるのも、潔くていいかも。

このシリーズは何よりキャラクターがお気に入り。
主人公のスカダーは、シリーズ初期はアル中の、途中からは禁酒者になった私立探偵。
ハードボイルドというほどハードではなく、売りはむしろペーソスかね。
あまりアクションシーンもない。ストーリーとキャラクターと哀感がいいバランス。

一人称単数で進む話だが、それが「私」であるのもいいと思った。
これが「俺」で書かれた話だと、まったくトーンが違ってしまう。
アル中だけども粗雑な人物ではない。私立探偵というイメージにそぐわず
相当に慎ましやかで淡泊、しかし一度事件に食らいつくと執念深く。
わたしの中で主人公のイメージは、映画「インタープリター」に出てくるショーン・ペンだ。

16作分の時間が流れるうち、状況は色々に変化する。
作中時間は20年くらいだろうか。(訳者によれば、たしか14作目か15作目で、
スカダーが一挙に5歳か10歳年をとってしまう、計算が合わない作があるそうだ)
読んでいるうちに、登場人物の移り変わりに懐かしさも覚える。

TJが好きだったなー。助手?を務める黒人少年。頭が良く、性格も良く、
少々減らず口を叩く癖があるが、優しいの。
それから、1作だけのゲストで(他1、2作にちらっと姿を見せる)
チャンスという黒人が――最初は娼婦の敏腕のヒモだったが、
その作の最終盤にはアフリカンアートのディーラーになり成功する――いたが、
それはオバマ大統領のイメージ。頭が良く、わりとかっこいいの。

会話も楽しめた。軽妙な、とは反対のベクトルの沈みがちなユーモア。
……考えてみると、ちょっと辛気臭いですかね……。こういう部分、好き嫌いはあるだろうが。
でも辛気臭いわりに、主人公はかなり幸せに暮らしている。
ここも好きなところかなあ。主人公が辛いばかりの小説は読みたくない。

同じ作者の「泥棒バーニィシリーズ」は、そのワンパターン感に食傷したのだが。
こういう風に旨みのある話を書ける人が、バーニィはなぜあんなんだったんだろうね?
軽みを出すのに苦労したのか。まあ、好みの問題なんだろうな。

少し質にばらつきはあるが、ほぼ全作ボーダーライン以上のところに持ってきていると思う。
ソフトハードボイルドにトライするなら、お薦め。

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