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◇ 小野理子「女帝のロシア」

ヨンデモ本。

「新書はこうあるべき」という本を久々に読んだ。
わたしの新書の定義は「本来難しい内容を、専門家がとっつきやすく書く一般向け入門書」なので。
ロシア文化学専攻の学者が書いたエカテリーナ大帝をメインにした物語風歴史。
面白かった。

最近、新書って内容が薄くなっているでしょ。単にエッセイ、単に実用書でしかない。
別に文庫でもいいものを、売れるからといってわざわざ新書で出している。
個人的にはなんかヤダなあ、と思っています。

新書のメリットって、各方面にわたってちょこちょこありそう。
新書レーベルはものすごくたくさんあるが(wikiには、知らんわこんなの!というのがいっぱい)、
出版側としては一般書より薄く作れる上に、文庫と比べて若干単価が高いこと、
デザインが固定なので、その分時間も手間も金もかからないこと、などがあり得ると思う。
書き手にとっては、原稿量が少なくて済むこと、てっとりばやく本になることかな。
読んでる方としては、カバーが地味というかまともで、硬い本を読んでいるという気分になれる。
まあ、あくまでわたしの予想だけど。

そういうメリットゆえにか新書が花盛りだが、花盛りは質の低下を生むんですよねえ。
ブームになると、完全に数打ちゃ当たるだから……。元々生産コストが安めな分、
とりあえず出してみようか、ということがしやすいスタイル。
……まあいいんだけどさ。それでわたしの損になるわけじゃないし。

でも新書は入門書という側面を意識して欲しいなあ。
その分野へ誘う魅力的な扉であって欲しい。

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「女帝のロシア」というわりには、ほとんどがエカテリーナ大帝のことなので、
タイトルはもっとふさわしいものがあったのではないかと思うところ。
図書館の検索システムで「エカテリーナ」で検索してもこの本は引っかからない。
エカテリーナに興味を持って、1冊目の本を探している人が読むのに
とても良い本だと思うのに、残念ですね。

この本にはダーシコワ公爵夫人というエカテリーナの女官長だった人が出てきて、
相当なページを割かれている。この人が面白かった。この人メインの本を読んでもいいくらい。
知識欲が旺盛で、実務の才能もあり、(この本の中では)率直で公平なイメージ。
アカデミー院長としての活躍の部分なんか泣けた。

実はこの人、従来の見方だとあまりよく言われない人らしい。
(アンリ・トロワイヤの「女帝エカテリーナ」とか)
筆者によれば、それは男性の女性に対する偏見が多分に含まれているからだそうだ。
ジェンダー分野は正直好きな方じゃないけど、自分のことを考えても、
女性が書いた文章の方により説得力を感じることが多々あるから、
ダーシコワをこの本で知ったことは良かったかもしれない。

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小野 理子
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いつかはエルミタージュに行ってみたいもんだ。

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