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◇石川達夫「黄金のプラハ 幻想と現実の錬金術」

学者はたまにこういう佳品を書く。

構造的には当然のことなんだけど。
書くにせよ、話すにせよ、人間は自分の一番得意なこと、あるいは好きなことについて
表現している時が一番面白い。学者なんてのは、世の中の職業人の中で、
得意なことと好きなことが最も近接しているべき幸せなグループのうちの一つだ。
学者が専門について書いて、面白くなくて何としょう。

とは言え、やはり文才という面は大きいから、学者が好きなように書いた本であれば
みな面白いかというと、さすがにそんなことはない。
もうちょっとマトモに(あるいは面白く)書けんのか?と言いたくなる人もちょこちょこいる。
学者は文章を書くのが仕事、でもやっぱりその質は、天与の才能でなければ
文学的インプットに支えられているんだろうから、質の良い読書をしてきたかどうかで
ピンキリです。
藤森さんなんか、名文というのとは違うけど、かなり読ませる文章を書く。
あの人はあんなカオして、若いころは結構文学書を読んだ人らしいから。
野蛮人なのに。書を読む野蛮人。意外性のオトコ。

さて、これですが、

黄金のプラハ―幻想と現実の錬金術 (平凡社選書)
石川 達夫
平凡社
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プラハ本としては相当の佳品。何か1冊ということであれば、これを読めばいいかも。
でも実は、固有名詞もガンガン出てくるし、それに対してのある程度の知識は要求されるから、
中級編といったところか。まっさらな状態でこれだけ読んでも、多分良さはわからなかろう。

著者はスラブ文化論専攻の人。……具体的にナニをしているのかは知らない。
例によって、日本人が日本でスラブ文化を論じることにどんな意味があるのか、という
疑問を抱かないではないんだけど、まあ、論じたいんだから仕方ないよね。
そういう立場の人が愛するプラハを好きなように書き綴った本。
基本は知識本なのだが、けっこう「あら、ロマンチスト」という文章も出てきて微笑ましい。
冷静さで包み込んだ情熱の匙加減が好きだ。気持ち良く読める。
愛着が湧く本だった。文庫にならんかなー。

この人はこういうのも書いているらしい。

プラハ歴史散策―黄金の劇場都市 (講談社プラスアルファ新書)
石川 達夫
講談社
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内容は上記本と重なりそうに思うが……。
でもこっちは新書だし、もっと一般向けに書かれているはず。
こっちも読んでみる。

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わが愛する学者本をいくつか。

以前にも触れているが、これは大好き。

フィレンツェ―世界の都市と物語 (文春文庫)
若桑 みどり
文藝春秋
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同じ若桑さんで「クアトロ・ラガッツィ」はこないだ記事を書いた。
とても長いが。

◇ 若桑みどり「クアトロ・ラガッツィ」 - プラムフィールズ27番地。
(この記事は、それはそれは長い……。)今はもう亡き、若桑みどりの力作。この人は「フィレンツェ」(世界の都市の物語)が大好きだった。フィレンツェ―世界の都市の物語(文春文庫)postedwithamazletat09.03.22若桑みどり文藝...

井波律子さんはマジメさのなかに漂うユーモラス。
が、この1冊!というお薦めがないなあ……
たまーにいまいちなものもあるし。でも基本的に専攻については外れナシだと思います。
ちなみに専攻は中国文学。で、三国志なんかのメジャー系じゃなくて、
志怪小説の類が専門なんでしょう。そうであって欲しい。

中国のグロテスク・リアリズム (中公文庫)
井波 律子
中央公論新社
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とりあえず蔵書の中から1冊。

石田幹之助「長安の春」。名著。

長安の春 (講談社学術文庫 403)
石田 幹之助
講談社
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実は、この本を図書館で借りた東洋文庫で読んで、しばらく経ってから
講談社学術文庫で出てるのを発見したのね。
その時、帯に「名著、復刊。」とコピーがあって……ああ、そうか、名著なんだ、
こういうのを名著というんだ……といたく納得した。
長安に対する愛が溢れている。

礪波護「馮道 乱世の宰相」

馮道―乱世の宰相 (中公文庫BIBLIO)
砺波 護
中央公論新社
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礪波さんの真摯さと馮道の姿が重なる。

他にもイロイロありますが。わたしの定番はこんなところかな。

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