学者はたまにこういう佳品を書く。
構造的には当然のことなんだけど。
書くにせよ、話すにせよ、人間は自分の一番得意なこと、あるいは好きなことについて
表現している時が一番面白い。学者なんてのは、世の中の職業人の中で、
得意なことと好きなことが最も近接しているべき幸せなグループのうちの一つだ。
学者が専門について書いて、面白くなくて何としょう。
とは言え、やはり文才という面は大きいから、学者が好きなように書いた本であれば
みな面白いかというと、さすがにそんなことはない。
もうちょっとマトモに(あるいは面白く)書けんのか?と言いたくなる人もちょこちょこいる。
学者は文章を書くのが仕事、でもやっぱりその質は、天与の才能でなければ
文学的インプットに支えられているんだろうから、質の良い読書をしてきたかどうかで
ピンキリです。
藤森さんなんか、名文というのとは違うけど、かなり読ませる文章を書く。
あの人はあんなカオして、若いころは結構文学書を読んだ人らしいから。
野蛮人なのに。書を読む野蛮人。意外性のオトコ。
さて、これですが、
平凡社
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プラハ本としては相当の佳品。何か1冊ということであれば、これを読めばいいかも。
でも実は、固有名詞もガンガン出てくるし、それに対してのある程度の知識は要求されるから、
中級編といったところか。まっさらな状態でこれだけ読んでも、多分良さはわからなかろう。
著者はスラブ文化論専攻の人。……具体的にナニをしているのかは知らない。
例によって、日本人が日本でスラブ文化を論じることにどんな意味があるのか、という
疑問を抱かないではないんだけど、まあ、論じたいんだから仕方ないよね。
そういう立場の人が愛するプラハを好きなように書き綴った本。
基本は知識本なのだが、けっこう「あら、ロマンチスト」という文章も出てきて微笑ましい。
冷静さで包み込んだ情熱の匙加減が好きだ。気持ち良く読める。
愛着が湧く本だった。文庫にならんかなー。
この人はこういうのも書いているらしい。
講談社
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内容は上記本と重なりそうに思うが……。
でもこっちは新書だし、もっと一般向けに書かれているはず。
こっちも読んでみる。
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わが愛する学者本をいくつか。
以前にも触れているが、これは大好き。
文藝春秋
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同じ若桑さんで「クアトロ・ラガッツィ」はこないだ記事を書いた。
とても長いが。
井波律子さんはマジメさのなかに漂うユーモラス。
が、この1冊!というお薦めがないなあ……
たまーにいまいちなものもあるし。でも基本的に専攻については外れナシだと思います。
ちなみに専攻は中国文学。で、三国志なんかのメジャー系じゃなくて、
志怪小説の類が専門なんでしょう。そうであって欲しい。
中央公論新社
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とりあえず蔵書の中から1冊。
石田幹之助「長安の春」。名著。
実は、この本を図書館で借りた東洋文庫で読んで、しばらく経ってから
講談社学術文庫で出てるのを発見したのね。
その時、帯に「名著、復刊。」とコピーがあって……ああ、そうか、名著なんだ、
こういうのを名著というんだ……といたく納得した。
長安に対する愛が溢れている。
礪波護「馮道 乱世の宰相」
中央公論新社
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礪波さんの真摯さと馮道の姿が重なる。
他にもイロイロありますが。わたしの定番はこんなところかな。
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