久々たっぷり満足な1冊。
例によって情報はここから。
いや、でもね、わたしにとって、この著者名は難ですよ。
ペンネームをカタカナにする人には共感出来ない。今までカタカナの著者名で面白かったものが
全然なかったかと言えばそうでもない気がするが、ペンネームのつけ方としてはヤな感じ。
賑やかしっぽい、空回りっぽいノリの、軽薄な作風を想像するのだ。
だが、この作品に軽薄さはなかった。軽やかではあったけれども。
落ち着いた、淡々とした話。女の一代記と言える内容のわりには、むしろ作者の比重は
時代の流れの方にあったのかもしれない。典型的な一代記が至近距離から
主人公を舐めるように可愛がる傾向があると思われるのに対して(宮尾登美子参照)、
この本での描き方は、ワンクッションおいた冷静さを保った描写。
まあ多少主人公に対しては贔屓なんだけどね。
でもこの本に出てくる人は、実はほぼ全員が好意的に書かれているので、
主人公贔屓が鼻につくことはない。
読む前は、もっとトンガったキャラクターを想像していたなあ。
80歳で現役の女、という説明がされただけで、派手でおしゃれで美人で、
うっとうしいほど生命力に溢れた、そんな人物を思い浮かべるではないですか。
でも実際読んでみると、ハルカはむしろ淡々と生きて来た人なんだよね。
淡々と。それも自分を客観視しながら淡々と。
あえてモンクをつければ、これは作者の目とハルカの視点を同一視しているからこそ
出来ることである気がするなあ。人間、こういう風に「なるほど」と生きていけるものか。
旦那の浮気にしても、事業の不安定さにしても、もう少しオタオタしそうなもんではある。
そこまで達観は出来まい。
まあでも淡々とした話だからこそ、わたしは楽しく読めたんだけどね。
不倫の色恋沙汰をこってりと書かれても、個人的には「なんでそんなもん読まなあかんねん」だし。
あ、大阪・滋賀が舞台なので台詞はそっちの方の言葉。そこも良い効果だったな。
軽みが出る。おそらく田辺聖子さんと近い雰囲気なのではないかと思った。
(田辺さん、相当に好きなわりには現代小説は読んだことがないので断言できないが)
登場人物はみんな魅力的。
旦那であるところの大介さんは、出来ればもう少し誠実であって欲しかったりするし、
ハルカの妹の時子は、唯一うざったい存在ではあるけど。
わたしのお気に入りはお姑さんであるミヤと、やはりこの人は外せない日向子。
上記の記事でも最後に
“ちなみに第4章104~109ページは爆笑もの。日向子さんはかなりツボにはまります。”
と書いてあるが、実はわたしも全く同じところで爆笑しました。特に107、108ページ推し。
読みながら「突っ込むな!」と突っ込む。
その時々の風俗が、生活に即した形で(たまには割合に唐突に)豆知識的に挿入されるのも
面白く読んだ。調べるのはわりあい手間なんじゃないかな、小技なだけに。
ただ、最初と最後はもう少し書きこんで欲しいと思った。
80才のハルカさんの魅力ももう少し足りないし、最後は尻切れトンボで、
あそこで終わっては一番大事な部分が抜けてしまっているのも否めない。
さて、今後はこの人の、どの作品を読んで行こうか。
いやー、でも「不倫(レンタル)」とか「ツ、イ、ラ、ク」「ああ正妻」とかいうタイトルだと、
どうも食指が動かないんだよなー。
実は鹿島茂が姫野カオルコを相当に贔屓であるようなのだ。かなり力を入れている。
うーん、もう何冊かは読んでみたいが。エッセイはとりあえず読めるとして……小説がねー……
この人の作品は何回か直木賞候補になっているらしい。
鹿島茂が書いていたことかもしれないけれど、この人はむしろ芥川賞なんではないかなあ。
楽しい純文学。いいじゃないですか。
コメント