いや、堪能しました。
前回のエキシビがダメダメだったので、今回こそは!と思って行ったが、
期待よりさらに上をいっていた(!)ので嬉しかった。ありがとう。関係者の方々。
エキシビの前半で目を惹いたのは奉納石碑。
見ている間はてっきり墓碑だと思いこんでいたのだが、そういうわけでもないのか。
チュニジアで信仰されていた主神、タニス女神に捧げられたものらしく、
タニス女神の略章?と誓文、その他が彫りこまれている。
10点前後あったかな。大きさや基本形はみな似たようなものだけど、それぞれ興味深く見た。
なぜか、彫りこまれた線に惹かれた。
タニス女神は丸と直線だけで書かれた、まさにピクトグラムのごときもの。
その線も、曲がったり彫りなおして二重になっていたりと、素人っぽいことおびただしい。
これはプロの仕事だというような、ちゃんとした浮き彫りになっているのもあったけど、
数としては、頼りない、素人っぽい線の方が多かった。
それを刻んだ人のぬくもりを感じる。
タニス女神と、誓文と、船を刻んだ奉納石碑。航海の安全を祈ったのか。
祈ったのは船主か。それともその船に乗り組む船員の血縁か。
彫った人は奉納者とはまた別の可能性は高いが、祈りは彫り手にも乗り移るはずだ。
生きていた人の息吹。
アクセサリーもなかなか見事。
非常に細かな粒金細工。あるいは3センチほどの神像をペンダントトップのように配したもの。
装飾と呪術機能を、軽やかに混在させている。
中盤の目玉はローマ時代の大理石像。
これも質のいいのが20点近くもあり、それが並んでいるのは目を喜ばせる。
ヴィーナス像が美しい。ベルトで押さえつけられた衣裳のふくらみ。その柔らかさ。
とは言え、全体的な印象は少々硬質で、上手くなりすぎてしまった技巧が少し惜しいと思う。
日本の仏像で言えば、平安末期くらいのイメージだろうか。定朝様に近いというか。
頭部像が多かった。マルクス・アウレリウス帝の像は、何だか印象が違って笑えた気がしたな。
ああ、前3世紀の「有翼女性神官の石棺蓋」も良かった。
石棺の蓋なので水平に置いてあったが、全体を見るために立てかけておいて欲しい気もした。
でも本来は水平であるべきものなので、いいんだけどね。
有翼、と言った場合には普通は天使の羽根みたいについている翼を想像するでしょう。
この石棺の場合は、翼が女性の下半身をチューリップラインのスカートのように覆っている。
足がはっきり彫ってあるからそうでもないけど、足がなかったら人魚に見えそうだ。
ここまででも、かなり満足出来るラインナップだった。
そしたら最後に、出ました、真打。――モザイクがもう山のように。
「うわー、こんなに持ってきてくれたんだー……」と思わず呟く。
それ以前、展示の中間点くらいで10分くらいのチュニジア紹介ビデオが流されていた。
このビデオもなかなか良い出来で、これを見てチュニジアに行きたくなったくらい。
わたしは、これを単なるチュニジアの紹介ビデオだと思っていたんだけど、
実はこのエキシビのために作ったビデオだったらしい。
そのビデオに出てきたモザイクの佳品が最後の部屋に並んでいるのを見た時は、
予想していなかっただけに嬉しかった。ありがたかった。
何といっても、「地中海の島々と都市」というでっかいモザイク。
これをよく持って来た……。金もかかれば手間もかかったろう。ありがとうだよ、ほんとに。
これはモザイクの内容も面白くて、海に15?の島を描いて、そこに建物を描いている。
写実性は全くないようだが、……はるか昔「十五少年漂流記」がお気に入りで、
一人遊びで「無人島描き」にいそしんでいたわたしには相当にツボ。
「バラのつぼみを撒く女性」「水を注ぐ女性」これなんか、カルタゴ博物館の目玉であろうに……。
わざわざ仙台くんだりまで旅をしてきてくれたんだねえ。
優美な女性像。こういう美術品を作れる文化には親近感を抱かずにはいられないよ。
「ネプチューン」と「オケアノスと海獣」も面白かった。
前者はネプチューンが……目の部分が黒い石で強調されているのが災い(?)して、
眼鏡をかけたおっさんに見えて可笑しい。後者はまさにでっかい海坊主なのでそのまま可笑しい。
愉しく見た。
最後に本当にうれしかったのが、「メドゥーサ」。
ビデオに映った時に、「これを見るためにチュニジアへ行ってもいいかもしれない」と思うほど
惹きつけられた。髪の毛の、蛇の部分も見事だが、何より表情が独特だ。
ギリシャ世界だとメドゥーサは怪物で、醜く恐ろしく描かれるはずなのに……
このモザイクでは、いかにも現実にいそうな、女族長のような落ち着きとふてぶてしさ、
そして叡智を湛えた造型になっている。たくましく。雄々しい。
はるか遠くにあると思ったのに、出会いから数十分後に対面出来るとは思わなかった。
ありがたい。
ヨーロッパ……というか、地中海世界がなかったら、わたしの旅好きもなかったかもしれないな。
なんかもう、どっぷり浸かっていた。
あー、チュニジア。あー、地中海世界。あー、古代文明。
やっぱりこの辺が好きだ。
……結局ひたすらうっとり浸っていただけなので、あんまりこれという感想はないんです。
サイトもいい出来なので是非ご味読(というか眺めて)下さい。
特にモザイクを。ここまでやってくれるのはエライ。いい仕事です。
これによると、巡回の初っ端が仙台なんだね。ほほう。
……わたしは声を大にして言うが、このエキシビは
お す す め 。
行って損はさせません。
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