PR

◇ 三崎亜記「失われた町」

この人の「となり町戦争」は、わりと長く平積みになっていたような覚えがある。
地味そうな装丁のわりに売れているのだな……と思っていた。
タイトルからすると、ヤングアダルト小説――

※ここで割り込んで、問いかけたい。

中学生から高校生、大学生も難しい本は読まなさそうだから含まれるかもしれないが、
その年代が読む本の一般的な呼称はなんと言えばいいんですか?

行きつけの図書館と、地元新聞の書評欄では「ヤングアダルト」という言葉を見かける。
だが、個人的には全くピンと来ない。自分の該当年代において「ヤングアダルト小説」を
好んで読んだという記憶がないし(言葉としてなかったのかもしれないが)、
アダルトという言葉は「成人向け」という言葉と同じように、本来は全くおかしな意味を
持たないはずなのに、あるイメージが付随する言葉として使われている。
なので、自分で使うには抵抗がある。

ジュヴナイル?
フランス語由来のようなイメージで、英語ほど明確にイメージを持たない分、
日本独自の意味づけをするのに便利な言葉だと思うが、
ジュヴナイルというと、個人的にはせいぜい10代前半まで、と言う気がする。
基本的にはファンタジー系。それも、あまり過激さを含まないもの。

少年小説?
少年だけを使うと範囲が相当限定されるし、少年少女小説だと50年くらい前の小説みたいだし、

ライトノベル――
ライトノベルを好む年代は中学生から大学生という年代に重なっていると思うが、
その言葉が年齢についての意味を含まない以上、それで代用させたくはない。
っていうか、ライトノベルという言葉自体、まるで鵺のようにワケワカランではないですか。

結局結論が出ないので、簡単に「若者向け小説」――※

タイトルからして、十中八九、若者向け小説だろう。
日常系不条理の、もしかしたら多少ドタバタかギャグを含んだSF。
――と予想しつつこのあいだ読んだら、これが全く違いました。
ドタバタ・ギャグ要素は無し。静かで蒼白い小説でした。

となり町戦争
となり町戦争

posted with amazlet at 09.06.28
三崎 亜記
集英社
売り上げランキング: 216594

うーん、これなあ。
魅力がないわけではないんだけど。静かで蒼白い、繊細な雰囲気がいい感じではあるんだけど。
しかしこれは設定で売る話だからなあ。タイトルに戦争を持ってきたくらいなのだから、
設定に見合うような、ある程度動きのある話じゃなきゃ肩すかしなんじゃないかねえ。

読み手はある程度内容を予測する。その予測に応えることも書き手には要求されるんじゃないか。
予測を裏切るのももちろん有りだが、その場合は効果的じゃないとね。
効果的とまで言えたかというと……。

あ、そうそう、ちなみにこれは17回小説すばる新人賞受賞作品。
それを考えると読み手のことまで考えろとは言えないか。

※※※※※※※※※※※※

さて、そして「失われた町」。

……これは大変に不満だよ。何が不満って、そのあまりの設定の多さが。
プロローグがわけわからないのは、一般的によくあること。
それで「何?」と思わせといて、本文で遡って説明していくもんだからね。
でも本文に入ってからも、設定がこれでもかってくらい延々と並べられ……
食傷した。生の食材を次から次へと口に詰め込まれたみたい。消化不良を起こす。

こういうSFというかファンタジーの分野では、世界設定の説明はもちろん不可欠。
が、だからと言ってこんなに押しつけられてもなあ。
歴然とSF!って感じだったら、もう少し許容範囲が広がっただろうが、
日常とわずかにずれただけのパラレルワールドなので、設定に色々無理を感じた。

話としては、

30年に一度、どこかの町の住民が根こそぎ消える。
どうして消えるのか、消えて一体どこへ行くのかはわからない。
残された者の悲しみ、町の“汚染”と共に生きて行く者の苦しみ。
そして新たな町の消滅を食い止めるために何が出来るのか?

……けっこう適当なまとめだが、話はこんな感じなんです。
個人的には、どうして消えるのか、消えてどこに行くのかはぜひ結論が欲しいところなんだけど、
そういう話ではないらしい。まあその部分は仕方ない。だが。

消えた町に関することは全てオフリミットになるため、

消えた町名が書かれたものを(手作業で係員が)回収していくとか。
(そんなもん、2人だけで1日に何軒も出来るはずないでしょ!)
その係員は一般国民の中から任意で選ばれるとか。
(任意選任がそぐわない職務内容ではないか?)
しかしその任意というのは実は建前で、裏基準として「最近大切な人を失った人」があるとか。
(裏基準にする意味があるのか)
消えた住民の関係者(家族親戚友人知人含めて)は、消えた住民の写真を全て
提出しなければならないとか。
(そんな面倒なこと一般国民が協力するわけないじゃん!)
写真は提出義務があるけど、絵は持っていていいとか。
(なんで!)
残された者は消えてしまった住民のことを悲しむことは許されないとか。
(悲しんでるかどうかなんてオカミにわかるか!)
……こんなコマッカイ設定が山のように。ほぼ最後まで設定の山。

他に、大きな設定として、手術して人格を分離させる本体別体がどーのこーのという話とか、
居留地というものがあり、そこでの人間の宿命がどーたらこーたらとか、
別にこの話に混ぜなくてもいいような特殊設定を詰め込んでるんだよなー。
なんでここまでするかねえ。

もういい加減にしてくれ!と後半は憤っていた。
設定がちゃんと伏線になっているならまだいいのに、意味がないような設定ばっかりなんだもの!!
子供がどんどんマイルールを勝手に作っていく感じ。
マイルールはマイルールでいいけどさ、ここぞという根幹だけに留めておくべきじゃないの?
どうでもいいところにまでマイルールを増殖させた結果、世界があほくさくなってしまうよ。

嘘をつくのなら大きな嘘を。
その嘘を数多くの小さな真実で支えるからこそ、大きな嘘が生命を持つ。
そこがフィクションの背骨じゃないのか。

作者は設定フェチなんだろうな。
わからなくはないんだけどね。世界を構築する作者は神だ。神の絶大な力を持った人間は、
思い通りに世界を作りたくもなるだろう。それを創造している時間は至福の時。
――付き合わされる読者はいい面の皮ですが。

こういう設定部分に反応して喜ぶのは、むしろ若者が多いのではないかと思う。
わかった。この人はライトノベルを書いてみたらどうかな。意外にハマるかもしれない。
でなかったら、編集者はもう少し仕事をして、作者に設定をちゃんと取捨選択させようよ。
もう少し刈り込めばちゃんと形になりそうなのに、もったいない。

失われた町
失われた町

posted with amazlet at 09.06.28
三崎 亜記
集英社
売り上げランキング: 159303

最近刊は今年1月発行の「廃墟建築士」。
これがどう出るかだねえ。デビューから4年か……。まあ一応読む予定だけれども。

この本で素直に褒めることが出来るのは装丁。
この装丁は巧くやった、という感じだ。なかなか。
実際に現物を見てみないと(そして内容を読んでからじゃないと)
どんな風になかなかなのか、ピンとこないのが装丁家にとっては気の毒だが。

コメント

  1. 藍色 より:

    Unknown
    こんにちは。同じ本の感想記事を
    トラックバックさせていただきました。
    この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
    お気軽にどうぞ。

  2. umeko より:

    Unknown
    ご訪問ありがとうございました。

  3. 小鉄 より:

    そうなのそうなの!
    失われた町読了後、もやもやした気持ちで他の人がどんな感想を抱いてるのかとサマヨッテ行き着きました。
    後半言いたい事が書かれてて、超すっきりしました!!

  4. umeko より:

    いらっしゃいませ。
    ……ですよねえ(^_^;)。

    でもこの本を読んだのはけっこう前なので、
    今はわりあい広いココロで振り返ることが出来ます。
    (喉元過ぎればってヤツですね)

    この作者、このままじゃアカンやろなーという気持ちは変わらないのですが、
    基本的に物語を書く人はオタクであるべきだと思うので、
    この人の群を抜いたオタク性(廃墟に対する)は、
    作家としてのアドバンテージになり得ると思います。

    ……もう少し読む人のことも考えてくれればね(^_^;)。
    もうちょっと上手く育つかもしれないんだから、編集者は親身に面倒見たれ。

    ご訪問ありがとうございました。