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◇ カレル・チャペック「ダーシェンカ」「園芸家の一年」

わたしにとってカレル・チャペックは、長らく紅茶屋の名前だったのだが……。
(それにしても実在の人名を店名につけるってのはどうだろう。
わたしの感覚からはイヤだなあ。他人の名前を商売に使うなっちゅうねん)

それはそれとして。

かわいい、かわいいダーシェンカ。

一読で心を鷲づかまれ。……日本語としては大変間違っているが、そんな感じ。

文庫本でさえ本文50ページ弱しかない。生まれたばかりの子犬が歩きだし、いたずらをし、
そして貰われて行くまでのほんのわずかなスケッチ。
それだけの作品なのだが、しかし。――なんと愛が詰まっていることよ。

ダーシェンカの歩く練習なんか、もう可愛くて可愛くて!
むくむくした子犬がいかにもおぼつかなげに、ヨロヨロとヨチヨチと歩いている。
文字だけで読んでいるのに(正確には挿絵もあるが)その様子が目の前に現れる。
ダーシェンカ、がんばって!と、ちっちゃなお尻をポンと叩きたくなる。
叩いたらきっと彼女は(メスだそうである)「なに?」というように、
きょとんとしてこっちを見るんだろうなあ。

ダーシェンカはわたしの心に住みついた。
カレル・チャペック恐るべし。無から有を生み出す、魔法使いだよ。

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涙を呑んで「園芸家の一年」。何が涙かというと、わたしはタイトルとしては
「園芸家12ヶ月」の方が好きなのだ。

わたしはもう少しゆっくり読みたかった。
が、文章が、読むスピードを緩めさせてくれなかった。転がるような文章リズム。
コミカル・パントマイムを思わせる呼吸。

ニヤニヤ笑ってしまって、読んでいる間中、実にアヤシイ人だったよ。
カレル・チャペック恐るべし。他人の愉快回路を空間と時間を超えて随意にあやつる。

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タイトルに園芸家とついていることで、園芸に興味がない人にはアピールしないかもしれないけど、
読み手が園芸に興味があるかどうかは、はっきり言って全く関係ない。
この本は根本的に何の本かというと、園芸ではなく、
オタクの生態を(自虐的に)笑いのめす、ナンセンス・ユーモアの本ですから。

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