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◇ 古川日出男「ベルカ、吠えないのか?」

この本を読んだのは、以下の記事を読んだからなのだが。

http://www.webdoku.jp/shoten/cafe/65_takeuchi.htm

しかし読了してから読み返すと、この記事はものすごくまわりくどくしか語っていない。
なんでコレで読もうと思ったのか、今となっては不思議だよ。

いやでもこれは……どんな小説か簡単に表すのがすごく難しいな。
とりあえず読んで驚いてみる、というのが正攻法なのかもしれん。
だとすると、ストレートに語っていない上記の記事も、実は狙ってやったことなのかな。

ベルカ、吠えないのか? (文春文庫)
古川 日出男
文藝春秋
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しかしわたしはそういう慮りなく要約してみる。

第二次世界大戦時。アリューシャン列島に取り残された4頭の日本軍の軍用犬から
始まる犬の血統を主軸として追い、個々の犬のエピソードを積み重ねることで
その後の世界の軍事・政治状況、裏社会を描き出した犬の二人称フィクション。

これでどうだろう。まあ面白味はないから、紹介文にはならないが。

※※※※※※※※※※※※

これはかなり新しいフィクションだ。

現代小説をたくさん読んでいるわけではないので、あまり正確な所は言えないんだけど、
多分新しい。その証拠に(?)あんまりこれを小説と呼ぶ気にはならん。
どこが新しいかと言ったら……個々のシーンを次々切替えながら繋げていく手法かな。
こういうのはコラージュ風と言うのかな?映像用語で言うとクロスカッティング?
部分的に使用している小説はたまにあるかもしれない。
だが、全編(序盤でちょっと温く感じるところはあるが)でそれを行うのは
あまりないんじゃないか。

事実(ごときもの)をスピーディに追っているので、雰囲気は非常に辛い。
辛いというのはホットという意味じゃなくて、ドライ。ヒリヒリするほどの辛口。苦さ。
正直言うと、このドライさはわたし向きではないよ。
しかし何しろ焦点が犬なので、犬に惹かれて結局最後まで読めた。(外読みだが……)
犬部分もドライなんだけど、書き手の愛情を感じるのでかろうじてついて行ける。

あと新しいのは二人称。完全ではないけれど、二人称小説といっていいのではないか。
わたしが知っている二人称小説は、他には北村薫の「ターン」しかないが、
あれは最初から意志をもって(実験的に)二人称。こっちはあまり厳密には考えてないみたい。

新しいものが新しいだけで良いというわけではないが、
このスタイルで作品にまとめたのは、作者の相当な力量を感じる。
ドライだけれども。ドライ一辺倒ではなく、ストレートな泣きも、卑俗なユーモアも
適度に入っている。このバランスは(わたしにとって)良い。

けっこうな登場人物数なのに、ほとんど固有名詞が付いていない。人間には。
(何人かに綽名はある。)
それに対して犬は、ほぼ固有名詞が付いている。
登場犬物は何頭くらいなのかなあ。何世代にもわたっているので、50頭くらいになるのかなあ。
かなり(犬の)系図が複雑。わたしが読んだのは単行本だが、文庫の方を貼ったのは、
文庫の方には犬の系図が載っているらしいから。
系図がわからなくてもそのまま読み進めて全然問題ないけれど、じっくり読む人には
系図があった方が便利だろう。

ただ、わたしは最後が……。
あの人が実は後年のあの人で、結局こういう結末なんだよね、と思って読んでいたのに、
「一九九〇年」の2ページが入ったことで繋がりがよくわからなくなってしまった。あれれ?
いや、「今は一九九一年ではない」もよくわからないな。何で市街戦が起こるのかな。
現代政治史の常識をわかっていれば悩まない部分なのか?
でもわたしは現代社会にはほとんど興味がなくて、新聞も読まないしなあ。

そして本当のラストは、……ナニ?アレ。
“霧の内側の島”ってどこなのさ。ここまで話を持ってきた以上、補陀洛渡海風にファンタジーで
終わるってのはナシだよ。飛行機をチャーターって……。そんな派手な生活でしたっけ。
なんかとても適当に終わった気がしてならないんですけど。
わたしが理解してないだけなんですか。

けっこう感心しながら読んでいて、最後の和音が不協和音でこけた、という感じだ。
実はタイトルが「ベルカ、吠えないのか?」であることも、あんまり納得出来ない。
ここが納得出来ないということは、作品の意味をまったく掴んでいないということなのかしらん。

次は「アラビアの夜の種族」を読んでみようと思う。これ、タイトル的にはものすごく
期待してしまっているんですけど。
ただ、今回と同手法、同じ雰囲気だったら評価は下がるだろう。
アサヒスーパードライだけしか置いてない店があるとしたら、飲み屋としての間口が狭すぎる、
という意味で。まあないだろうけれども。

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