世にビジュアル本は色々あり、大抵はそこそこ楽しめる作りになっているが、
この本は「お、いいじゃん」というレベルまで持って来ていると思う。
まずB5判っていうところが良い。
大抵のビジュアル本は、昔のとんぼの本(あの判型は何と呼ぶのだろう?)の大きさか、
あるいは今のとんぼの本の大きさ(多分A5)で作られていることが多いが、
対象が美術であるなら、大きい方がいいね。絵としての主張が違うもの。
この本はその大きさを活かしてる。
全部の絵を1ページ1枚で載録するわけにもいかないが、けっこうな枚数を1ページで
印刷している。しかも見開きの左側を全面絵で、右側に字を置いているので、
単にぱらぱらめくってしまうということもない。
フルカラーであることが良い。
常々疑問なのだ。本来カラーで描かれた絵を、白黒で紹介することに意味があるのかと。
まあカラー版は、コストにダイレクトに跳ね返ってくるし、あまり値段を高く設定して、
売れない→出版点数が減るというのも痛しかゆしだから、あまり大声では責められないが。
色もけっこう吟味してるんじゃないかなあ。
こういう印刷物で色を出すのは、実は難しい。色の再現というのは実は大変なものだよ。
出版社名が東京美術。……あまり聞いたことのない会社だけど、ずいぶんこだわってくれてるのか。
ざっくりした文章部分が丁度良い。
こういう本で絵と字のバランスってのは難しいもんだと思う。
わたしは完全に字に偏する質なので、この本の字の分量だと物足りないって言っちゃ物足りない。
が、あまり字部分を多くすると、「読む」方向にどうしてもなっちゃって、
「見る」が留守になる傾向がある。それは本末転倒なんだよ。本来は「見る」本であるべき。
この本は要領よくミュシャの人生を並べてくれた。
すごく適度な線でまとめてくれていると思う。
「読む」を求めるのであれば、別な本を選ぶべきだろう。
同時代の画家の作品もちょこちょこ挙げてくれているのも良い点。
特徴は比較することで浮き彫りになるものだからね。
もうちょっとその画家の名前を、目立つように書いておいて欲しかったかな。
いい本の作りだと思うよ。お薦め。
あ、そうだ。文句が一つだけある。
表紙がいまいち。
いや、画面としては美しいんだよ。文字を最低限にして、主役であるべき絵を
どんと持ってくる。これはこれで一つの定見だろう。それは認めるのだが……
だが一瞬、「どっちが表紙だ?」と迷う。表を見て裏を見て、再度表を見て
あ、こっちか、とようやくわかる。それはちょっとなあ。
それの何がいけないって、そこで迷わせては本の作りとして素人っぽさが漂うということ。
その証拠に、図書館で選ぶ時にこの本は止めようかと思ったもの。
どっちが表か迷わせるような作りでは、中身も大したことはあるまいと思ってしまう。
中をパラパラ見て、借りる気になったから良かったが。
読んでからの方がこの本の評価は上がったし。だからこんなんも書いてるんだし。
ただ、これはシリーズで、同じ体裁で表紙を作っているから、
ミュシャの巻がとりわけわかりにくくなってしまった、ということはあるだろう。
他の画家の巻はフチなしで1枚の絵を持ってきてるけど、ミュシャは縦長のポスターを
2枚並べて構成したからね。その分少し弱くなった。
ま、重箱の隅をつつくような文句だ。
基本的に素直に眺めて吉の本。
東京美術
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わたしはミュシャの「スラヴ叙事詩」が見てみたい。
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