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< 白洲次郎 第1回「カントリージェントルマンへの道」 >(ドラマ視聴)

ここしばらくわたしの周囲で白洲次郎の人気がすごい。「白洲さま」という人までいる……。
白洲次郎は、数年おきに関連本がぽつぽつ平積みになるという地味ブームではあったが、
ここへ来てようやく盛り上がりが一定ラインを超えたのか、今回どーんとドラマ化。

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にやにやしながら言うけど……こりゃコリ過ぎだろう。

ほんとに金かけたなー。ここまでかけんでもええやんか!ってくらい。
真面目に言えば、対費用効果的には疑問を感じるよ。英国パートは特に。
エンディングの2秒のためにハワースに行く必要はなかろう。
(が、ほんとにハワースだったかは断言できない。合成っぽくも見えたけどね)

次郎の英国生活をモノクロームの写真で表すのはいい手法だった。
これが適当な写真だとすごく安っぽくなるのだが……。この写真も相当に凝っていた。
いかにも遺族がこういう写真を持っていて、そっくりに作ったんだろうなと思える写真。
……しかしまあこれもねー。実際に動画として撮るよりははるかに安上がりだったろうが、
それでも過剰に金がかかっている。枚数もう少し少なくても良かったよなー。

ここまで気合(と金)を見せつけられると、もうにやにやしちゃうよ。
わたしにとっては正子の旦那としての白洲次郎なので、どうしても二次的な存在になってしまうが、
それでも思い入れはある。ドラマになると聞いてから(知ったのは10日くらい前だった)、
いやあ、どうなるかねえ、と期待半分、不安半分。
NHKなので、そこまでアホか!という出来にはならないだろうが……大丈夫かいな、と。

ここまで凝れたのは、団体としてのNHKというより、個人の執着心、強烈な思い入れの
ゆえだと思う。もうこれは私物化の域ですな。
誰だ、犯人は?プロデューサーか?ディレクターか?
……非常に逆説的な言い方になってるけど、つまり、ようやったNHK、と言いたい。
わたしは非常に愉しい。

大変不安だった伊勢谷友介。
キャシャーンの人ってことしか知らなかった。演技的にはいまいち、という風評も聞こえてくる。
予告で見る分にはシャープな顔立ちとスタイルで、外見的にはまあまあ及第点だが、
何しろ白洲次郎だからなあ。どうなることやら。

が、結果としては気分良く見ていられた。
おそらく白洲次郎は本人的にもそれほど複雑な人じゃなかった気がするんだよね。
なので、この役で求められるのはシンプルな演技。喜怒哀楽を素直に(素直も難しいが)
表現出来れば、伊勢谷友介の英語とスタイル、姿勢の良さのメリットが活きてくる。
この点、十分だったと思います。いい人選だった。
……内面の演技というとちょっとアヤシイかもしれないが。父へのコンプレックス部分に
話がさしかかると、途端に説得力がなくなったように思う。
(しかしホント、このキャスティング、お辞儀さえ出来ない某アイドルじゃなくて良かったよ。
想像したら貧血を起こしそうになった。)

難しいのは中谷美紀だなあ。
見ていて正直多少もどかしい。これは、役柄として相当に微妙な立ち位置だもの。
狂言回しってわけでもなく。登場人物の一人がナレーターになるのは珍しくもない手法だけれど、
それにしては次郎と正子の距離感が微妙過ぎるんだよ。
ナレーター役はもっと引いた位置にいる人か、あるいは主役と行動を共にしている
視点人物専門の人が行うのが落ち着く。しかし今作では次郎と正子は全く別個でほとんど
交流がない。夫婦でこれほど違うストーリーが語られる人も珍しいと思うよ。
正子の話は第2話でおそらく多く語られるんだろうが、現在のところは
「何でいるの、あんた?」的な不思議な存在になっている。
まあ、中谷美紀だからこそ、こんなワケワカラン立ち位置でも多少なりとも存在感を
保っていられるのかも、という気はするけれどね。健闘中。

原田美枝子はいい所の薄幸の奥様が似合いますなー。
こないだの「華麗なる一族」とジャンルは同じだが、やはりニュアンスを出してきますねー。
奥田英二が怪演(?)。眉間の皺の寄り具合が気になって気になって……
原田芳雄も怪演かもなあ。物真似をするとは思わなかった。
それから大工の棟梁もいい。よく見る役者なんだが、名前がわからないのが残念だ。
少年時代の役者もなかなかかっこ良かったですね。

ディテイルで説得力が増す、というのは常々わたしが主張していることだが、
……凝りすぎて蛇足と感じるドラマは珍しいよ。
例えば文平さんの死の場面とか。椅子に座っている所を映す時間は長すぎたと思う。
その後、倒れている文平さんをはっきり映すならなおさら。
棟梁が柩を作るエピソードも、あそこは実際に作っている所まで映さなくてもいいだろうと思う。
演技としては良かったんだけどね。あそこまでやっていると話がぶれる。

そこまでやっているのに、少し足りない所もあったよね。

ロビンとの友情を育む所はもう少し映して欲しかった。
初対面の握手と、研究室でロビンが心配そうに次郎を見つめている所をぼんやり映しているだけじゃ
足りない。写真にはずいぶん写っているけど、わたしはそれでは納得出来なかった。
次郎が母から破産宣告を受け取った時に、ロビンがノーブレス・オブリージュを説く、とかは
どうだったろうかね?
……ちょっと陳腐すぎますか。

やはりロビン関連になるが、伯爵家の晩餐会の内容には納得出来なかった。
次郎の演説は、ほとんど社交辞令に近いような一般的な内容だったと思うのに……
「日本の状況を知己に伝え、戦争回避のために力を貸して下さい」
それを皆が断る、というのは流れ的に納得出来ない。
イギリスも島国で、メンタリティはいくらか日本と通じる所がある。
ああいう席で言質を取られることはイギリス貴族たちは嫌うだろうが、逆に断絶も嫌うと思う。
次郎の言っていることが相当に具体的なら話は別、あの程度の一般論であれば、
むしろなあなあで「あなたの言っていることはよくわかりました」くらいのお愛想は言って
うやむやにする、という流れであるべきな気がする。

いやまあでもとにかく。
とても良質なドラマを見せてくれている。細かいことを言えば、ドラマというより何か別のもの……
映画でもない、なんというか……立体絵本の映像版、という気がしているんだけどね。
リズムが文字作品のようだ。その分、じっくり見ていられる。

さて、次週の2話はどうなるか。
正子パートの話になるなら、次郎は……より複雑な演技を求められたりするのかねえ。
目下一番不安なところはそこ。1話のように、公の出来事をメインに追って行くのであれば
「型」で乗り切れる気がするが。
来週を、楽しみに。

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