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◇ 諸田玲子「お鳥見女房シリーズ」

このシリーズの前に初諸田作品として「髭麻呂」を読んだ。
書評で読んだ“平安時代の捕物帳”というところに新味を感じたのだが、実はあまり面白くなかった。
内容が薄くて。キャラクターはぽわんとしてまあまあいい感じなんだけどね。

その次に読んだのがこの「お鳥見女房シリーズ」。こちらは江戸後期の話。
お鳥見の意味を知らなかったのだが、鷹匠の下にいて餌を捕まえたり、お狩場を整えたり、
お鳥見の名の下に情報収集を行ったり、という役目だそうだ。
このすぐ前に、山本兼一の「白鷹伝」を読んでいたのでちょっと縁を感じた。

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結果として読後感はこちらも薄いのだが、それはしょうがないかと観念した。
時代短編。あまり読み込んでいるわけじゃないけど、鬼平とか北原亞以子を読んだ限りにおいては、
小粒がこのジャンルの宿命なんだろうから。
何しろ短編なんだし。短編であまり山あり谷あり、波乱万丈というのも書けないでしょうからね。
短編でも、ざっくり極彩色でシーンを描き出す、という手法で書く場合もあるが(山尾悠子あたり)、
時代小説というジャンルにおいては、淡々と数をこなすというのが大事だというか、
求められるもののような気がする。

そういう風に考えるなら、このシリーズはまあまあ。
殺伐とした現実世界の憂さをひと時忘れ、心を休めるにはいい話だと思うよ。
……なんだか大仰な言い方になっているけど、
つまりまさに水戸黄門的。安心できる話です。

息子・娘たちの淡い恋の話。突然転がり込んで来た居候と仇討の話。
近所の出来事として語られる家庭内のごたごた。
お鳥見役の夫がいずことも知れない他国へ潜入し、消息不明になることなど。
トーンとしては一定というか、悪く言えば変わり映えしない話が続くわりには
しょっぱかったり渋かったり、味のアクセントは一応ついているので、そんなに飽きないかな。

……ま、いい話にありがちな「ファンタジーやなあ」と苦笑する部分はあるけれどね。
いやー、内証が苦しい御家人の家庭で、大食いの男+食べざかりの5人の子供+若い女を
突然居候として受け入れるのは無理やろ。
この話にはスイカだのオハギだの、季節的な食べ物が実に頻繁に出てきて、それもウリの一つだが、
人間、無い袖は振れません。使用人を使う余裕もないのに人口が倍増では絶対家計は破綻する。

なのに主人公は「何とかなるでしょう」と言って、色々食べ物を準備するからなあ。
魔法を使っているとしか思えない。ファンタジーと思う所以。
他にも息子・娘たちの恋愛がみんな成就するところとか。江戸時代の身分制度で、
ああいう自由恋愛が出来ただろうかね、一体。

でも、まあ、好きと言える話で良かった。
物足りないことは物足りないけどね。しかしこのあたりの作品までをユルせないようでは、
ほんとにわたしの読書生活は不幸になるばかりだし……

お鳥見女房
お鳥見女房

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全4巻。まだ続けられる形で終わっているし、前述したように時代短編は続けてなんぼって
気もするからもっと巻数を重ねる予定かもしれないけど、話としてはここで終わっていいな。
鷹姫様があんな家に嫁入りして来て我慢出来るとは思えない。
その部分を書くと嘘になってしまうと思う。それこそファンタジー。
まあいいんだけどね、ファンタジーでも。

……でも正直に言うと、出来ればもそっとこう、歯ごたえのあるものを読みたいのだ……

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こないだ録画したNHKの「週刊ブックレビュー」に出ている諸田玲子を見た。

あまり偉そうなことも言わず、素直に喋っていた。
今後も身の丈に合った創作をしていくつもりのようだ。
それならそれでね。いいと思うよ。そういう書き手も必要だしね。

……どうも話がまともな人だと、作品も多少好意的に見てしまうな。邪道だが。

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