かなり厚い本だが、最後これ?と首を傾げる。
これで終わっちゃダメなんじゃないかなあ。
あまりに要素を絡め過ぎて収集がつかなくなったのか。
わたしはちゃんと完結する小説が好きだから、こういうのは納得出来ない。
舞台は100年ほど前のパリ。主人公は精神科医で警視庁に勤めている。
警察に拘束された人のうち、精神異常と思われる人に診断をつけることが仕事。
新潮社
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万博。日本趣味。日本の骨董屋。
身元不明の日本人の少女が心を開くまで
万博に来た外国人女性を対象にした連続誘拐事件の解決。
娼婦の生活と病、死。
主人公を病的に恋い慕う伯爵未亡人とのやり取り。
主人公のカメラ趣味、薔薇窓への愛着。
これを全部(細かく言えばもっと多くの要素がある)盛り込んで、一本の小説に仕立てるのは
偉いけど……ちょっと多すぎるんじゃないかね。
しかも最後がなあ。音奴(身元不明の日本人少女)とくっついてめでたしめでたしでは……
そんな簡単に行かないでしょー。伯爵夫人はどうするんだよ。あっさり諦めるはずないじゃないか。
ストーリーとしては、連続誘拐事件が解決される話、ということでいいのではないかと思う。
というか、そうして欲しい。が、その他に割いた割合が多すぎて、ストーリーとしてすっきりしない。
その他の部分を3分の2くらいにボリュームダウンして欲しい気がするなあ。
そぎ落とすのもプロの技術だよ。
読んでて面白くないわけではないんだけどね。あまりにも着地が安易な気がして……
この人の作品は、登場人物がみんないい人というのが特徴なんだけど、
そこに安易さを感じる。だって普通はもっと困ったことになるはずなんだよ。
例えば、伯爵夫人の当て馬としてことさらに親密さを強調していた知り合いの警部の妹さんが
伯爵夫人の執事に殺された時。
普通だったら、事情を知った警部は主人公を責めるでしょう。いや、表だっては責めない
可能性もあるけど、内心では責める。もっと主人公は良心の呵責を感じていいはずだ。
妹を利用したわけなんだから。一応主人公も悩むけど、それは一過性で、
だからといって伯爵夫人に対する抜本的な対策をたてるわけでもなく。
だいたい伯爵夫人がああなっちゃったのは、アンタの対応に多大な問題があるでしょうが!
と言いたい。
この人の書く主人公は常にモテすぎ。で、プレイボーイとして描かれているわけでもなく、
純情で誠実でいい人、だから不自然だ。一作だけだったら気にならないけど、
全部そうなんだもん。もうちょっと人間、ごちゃごちゃのどろどろになったりするものでしょ。
……と、前回の「聖灰の暗号」の時も言った。この人のこれは直らないかも。
しかしなー。不覚にも、と言ってしまうが、この作品を読みながら、
わたしは辻邦生と一瞬混同しそうになっていた。誰が書いてるんだっけ、と一瞬思った。
多分最大の理由は、単にフランスが舞台の時代小説だからだろうと思うんだ。
塩野七生がイタリア書きであるほど辻邦生はフランス書きではないが、
でもエッセイにおいてはフランスに関することが圧倒的なので、どうしても
「フランスの人」という意識はある。
しかも辻の友人の北杜夫は精神科医だし。少女の書き方なんかにも辻を思わせるものがある。
いや、でも。辻邦生は愛ですが、帚木蓬生には別に愛着があるわけではない。
まあ「国銅」面白かったし、その部分で親しみは持つけれども。
そんな帚木と辻を一緒くたにしてしまうのは、自分としては非常に悔しい。
悔しいが、実際一瞬混同してしまった。あ~あ。
トータルの小説としては(ラストがあかんので)あまり評価したくないけど、
読んでて退屈はしなかったよ。けっこうなページ数なのにわりとちゃっちゃと読めたし。
さすがに一気読みするほどではなかったが。
うーん、でも「国銅」の人がこのくらいの作品というのは不満だなあ。
もう少し完成度を上げて欲しい。出来るはずなんだ、きっと。
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