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◇ 嬉しい!!

大変嬉しいことがありました。

何と、辻邦生「春の戴冠」が文庫化!おそらくないだろうと諦めていたのに!
でかしたぞ、中公文庫!1冊1000円で、文庫として個人的には許せない値段だが、
今回に限ってはどうでもいい!
どうもありがとう!

新聞で文庫化したという記事を見かけてすぐに買いに行った。
あとで確認すると、1巻はすでに4月の出版だったらしいのだが……
あまりマメに本屋に行くわけではないので、全く気づかなかった。
行っても気づかなかったと思う。平積みになるとは思えない本だ。

「字の本は文庫で買う」が掟のわたしには、「春の戴冠」は悩ましい本だった。
辻邦生は大好きだ。――持っているのは「背教者ユリアヌス」と「言葉の箱」しかないけれど。
「春の戴冠」は「背教者ユリアヌス」よりも好き。辻邦生つぶしは今のところ、
およそ4分の1といったところだろうが、多分一番好きな作品になるだろう。
だが「春の戴冠」を手に入れようと思ったら、10000円する単行本しかない。
10000円はがんばって出すとしよう。が、956ページの本、一体どこへ置けというのだ。
今だって本棚は飽和状態、そんな巨大な本を置く余裕はない。

いつかは心を決めなければなるまい、と思いつつ日を過ごす。
基本的には再読をしないので、手元に持っていても読むことはないだろう。
だが、愛した作家の最愛の作品(におそらくなるだろう)さえ持っていないのでは、
読書好きとは言えないのではないか。
いつかは。そう思って数年。……待っていて良かった。

その時同時に見た「北村薫の創作表現講義」の広告も嬉しいものだった。
好きな作家でも、どの作品も好きとは限らない。が、この人の、このテーマなら買いだ。
何しろ、彼は癪に障るくらい本を読んで来た人。「面白い」かどうかは不明だが、
間違いなく興味深いものではあるはず。

本屋に駆けつけたい本が2冊も見つかるなんて、なんて幸せなんだろう。
思えば、そんなヨロコビはもうこの10年、20年くらい味わっていないような気がする。
本屋で見つけて「おおっ!」ということは5年に1回くらいある。
(それでも5年に1回レベルなのだが……)
本屋に駆けつけたい本。発売日を待ちわびて買う本。
ああ、そんな本があった頃は幸せだったなあ。

実際に本屋に行ったら、平積みで、恩田陸の「小説以外」という文庫が出ていて、
ちょっと悩んだがこれはオマケで買い。
恩田陸の目下のところ1冊だけ読んでいるエッセイが面白かったので、少し嬉しい。
北村薫の本も平積みになっていて、2冊目ゲット。等加速度運動的に嬉しくなってくる。
3冊め。「春の戴冠」を探す。――ない。中公文庫の棚にも平積みにもない。

(うそだろー。これで「春の戴冠」がなければ画竜点睛を欠くではないか。
わたしの、この久しぶりの幸せを奪わないでくれ!)

祈りつつ、中公文庫をもっと探したら、外れの方に1冊だけありました。
「春の戴冠」。深い緑の背表紙。
手に取った時、わたしは満面の笑みを湛え――おそらくは、アヤシイ人だった。

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我ながらつらつら思うに、本ごときでここまで喜べるとは、なんてお手軽。
でも、このお手軽な幸福も、めったに味わえなくなっているのが現状。
この幸福をもっと味わいたい。そのためには面白い本、出会いを喜べる本がもっとあって欲しいのだが……
実際はそこそこの本が多く、「出会えて良かった!」という本はまれにしかない。
それを追い求めて、わたしたちは本を読むんだよ。

……なんか自分がドン・ファンのように思えて来ました。
ってことは、わたしの読書メモが、あのカタログに相当するんだろうな。
そう考えると、読んだ感想を忌憚なく書いている自分の読書メモが、
けっこうアヤシゲなものに見えてきたりして……。考えすぎか。

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