全米ベストセラー作品。
ベストセラーにしてはヘナチョコじゃない。……と言ったら各方面から石が飛んでくるか。
米国の読者層は日本ほど幼稚じゃないということか。……もっと石が飛んでくるか。
しかし最初は映画のイメージが邪魔して読むのが辛かった。
映画はテレビで見た。それが悪かったのかもしれないが、さっぱりいいとは思わなかった。
テレビだとついついながら見になってしまうから、まともに見たとも言えないけれど。
原作を読んで、これをうまく映画にするのはかなり難易度が高いんじゃないかと思ったなー。
話の骨格は陳腐といえば陳腐なんだし。……陳腐というのは少々辛い(カライ)か。
(いつも思うが、カライとツライの書き分けが出来ないのは間違ってるよね。)
ジュリエット・ビノシュが全然ハナのイメージじゃないんだよなー。
映画を撮った時点で彼女は30過ぎだったわけでしょ。原作では20歳。
戦争看護婦だった30歳の女に陰翳があるのは当たり前。
20歳が体験した過酷な戦争直後だからこそ、ハナの危うさということになると思うのだが。
それにわたしはジュリエット・ビノシュ、「ショコラ」しか見てないので、肉感的イメージ強いしね。
あー、邪魔邪魔邪魔っ!と思いながらイメージを振り払うのに集中力を殺がれた。
文章に詩的な魅力がある。それから、砂漠と爆弾除去作業に関する内容は良い。
……その部分はいいんだけれども。わたしとしてはそれだけ、かなあ。
詩的という部分をもう少し評価してもいいかとは思うが、あまりピンとこなかったことも事実。
詩的で不倫でアフリカの話なら、ディネーセンの「アフリカの日々」の方がずっと……
って、ものすごく乱暴なことを言ってますな。比較する必要は別にない。
人物の指定語――「男」「女」「キップ」「ハナ」「工兵」「カラバッジョ」「イギリス人患者」
「イギリス人」「私」が入り乱れて落ち着かない。整理しきれてない気がする。
そもそも時と場所をやたらと頻繁に移すから、一行目に「男」と「女」という語が出てきても、
それが砂漠の不倫カップルのことなのか、イタリア廃墟の若いカップルのことなのか、
次の行以下を読まないとわからず、そのタイムラグがわずらわしい。
視点の微妙な揺れを感じるところもあったように思う。
ハナがカナダ人って設定は不要だった気がする。しかもオジさんの名前がなぜカラバッジョ。
場所がイタリアなんだし、むしろハナもイタリア人……あ、駄目だ。連合軍側にはいられない。
でもヨーロッパ人の設定の方が良かったと思うなあ。カナダ人っぽい匂いは感じられなかった。
最後は無理矢理収束感が強いぞ。
キップの怒りは理不尽だ。ニュースに怒りを感じたとしても、
ああいう理不尽な方向にいくキャラクターではなかったと思うし、
あの時点であんな風に出て行くのは幼稚だ。最後の最後で崩れた感じだな。
せっかくそれまで静かに話を持って来たんだから、別に劇的な?幕切れの必要はなかったのに。
しかしこれがベストセラーになるとは面白いね。一般受けするとは思えない内容なのだが。
以前、ウンベルト・エーコの「薔薇の名前」がずいぶん売れた時も、なぜあれがそれほど売れるのか
理解できなかった。作品としてはまともだったと思うけど、一般受けする内容だったかね。
いや、ま、アレとかコレとか売れるよりは、こういう本に売れてもらった方が嬉しいんだけどさ。
どのへんの人たちがどのへんに惹かれて読んでいたのか、知りたい。
新潮社 (1996/05)
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