【柔らかい映画。ジェラール・ジュニョの姿形と表情、そして音楽が生命線。】
久々にいい映画を見たな、と思いました。上映時間も短めだし、お金をつぎ込んだ大作では
ないけれど、やっぱり映画の価値は想像力と美意識ですよ!
美意識を感じたのは色使いですね。やっぱりフレンチ、といったところ。
わたしはフランス映画を必ずしも好きなわけではありませんが、
(「仕立て屋の恋」とかねー。あんたら考えすぎやっちゅうねん!)
彼らの美意識はなかなかディープだと感じています。……ディープ過ぎるところが
嫌なわけだが(^_^;)。でもこの映画は鼻につくこともなく、適度。
最初の方のシーン、医務室辺りの壁の水色に惹かれました。すごく寒々しく、荒れていて、
ああ、ここには幸せがないのがよくわかる。それを汚く撮るんじゃなくて、トータルでは
きれいに見せる。しかしこの場所の不幸はダイレクトに伝わって来ます。
それからずっと寒色系で話は進み、でも後半はアースカラーに移行するのかな。
生き生きとしてほっとした色になる。でもあからさまに暖色系を用いないのが憎いですねー。
この映画にはほとんど暖色系は出てきません。唯一、少年の母親の衣装が実に控えめな暖色。
そして多分、たった一ヶ所出て来る鮮やかな色合いが花束。
うまいなあ、ほんとに。さりげなくて嫌味じゃないもんなあ。
この映画、主役は二人いると思います。ジェラール・ジュニョ(音楽教師)と
ジャン=バティスト・モニエ(モランジュ少年)と。
このジュニョがいいですねー。外見はコロコロとしたハゲのおっさん。
しかし何と味があることか。この外見でなければ駄目なのだ!と思わせるほどです。
演技がどうこうということを忘れるくらい、表情に見入ってしまった。
見る前から歌がいい、とは聞いていて、そして実際に良かったです。心に響きます。
ただ、判で押したように「この世のものとは思えない」というのはどうかと……
そこまでは思いません。しかしこの世のものとして、充分に良い歌であり声であります。
最初というのか、二番目というのか、少年がたしか寝室で歌うソロがとても良かった。
これが一番臨場感のある音処理だったと思う。逆に発表会の時は、屋外で歌っているのに
響きが屋内であった(筈)ので、比較すれば今ひとつ感動が薄かった。
脇の人たちも皆良かったですね。脚本的も、役者的にも、過不足なくという感じ。
とりわけ印象が強かったのは犯罪者の少年です。けっこう登場シーンの多い役どころですが、
パンフレットによれば、実際に更生施設に入っている少年だそうで、
それを監督が周囲を含めて熱心に説得し、撮影にこぎつけたそうです。
全く素人にしては表情も良かった。存在感もあった。役柄は微妙に弱いかと思うが……
ただ惜しいのは、ラストでしょうか。どうもバタバタ終わっています。話のつなげ方も
少々変だと思った。それは最後にバスで締めたかったからかもしれないけれど、
でも時系列に並んでいるところに、小過去に戻る形になるのは少々無理がある。
ここが整理出来てたらかなり完璧に近かったんだけどなー。
確かに他にも「ちょっと危うい」と思う部分はあったりもするんだけど。
ともあれ見て満足の映画。全く好みの違う人以外にはお薦め出来ます。
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