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◇ 浅暮三文「針」他

浅暮三文。けっこう不思議な作家。
この半年くらいで5冊読んだ。「ダブ(エ)ストン街道」「針」「10センチの空」
「殺しも鯖もMで始まる」「左眼を忘れた男」の順番で。

これがねー。みんな作風が面白いほどばらばらなのだ。
「ダブ(エ)ストン街道」がデビュー作。読む前のイメージでは、ファンタジーで
ほのぼの系だと思っていたのだが、実際に読んでみると、シュール風味が強い少々癖のある作品だった。
「針」は五感シリーズの一つ。これは……作品の意味としては、なかなか感心する。
五感を正面からテーマにした小説(「針」のテーマは触覚)なんて初めてだし。
しかもその狙いは非常に成功していると思う。誠実にテーマに取り組んでいる。

次の「10センチの空」はものすごくほのぼの系。
実に素直ないい話。素直な顔をしているわりに仕掛けもうまく働いているし、
こういうのだったら安心して読める。
「殺しも鯖も~」は一応ミステリ。ミステリとしてはしょーもない部類に入ると思うが、
読後感は悪くなかった。外国の慣用句を多用した小説なんて、面白いでしょ?
で、今回の「左眼を忘れた男」。五感シリーズ、これは視覚。

頭がいい人なんだろうな。相当頭で考えて書くタイプ。
わたしはタイプとしては、手探りで書く作家より、ちゃんと設計図を引いて書く作家が
プロっぽくて好きだから、作家として好感が持てる。
基本的には「仕掛け」は嫌いだけど、この人の場合は「仕掛けのための仕掛け」に
堕していないので良い。

……が、彼の作品が「好き」かっていうと……。
評価点が作品への好意に結びついていかないのが、我ながら残念だ。
まあ「10センチの空」とかはね、ごくごく普通にいい話なんだけどね。
「針」となると、痴漢・変態小説だからねー。なかなか斬新なものを書いている、と
感心はするけど、好きにはなれんな。さすがに。
やっぱりねえ、読んで好きになれるかどうかしかないですよ、作品というのは。
残念ながら好きにはなれない。出来れば好きになってあげたい作家であるにもかかわらず、
好きになれない。

遠くから声援を送っておこう。わたしは5冊で脱落するが、本の神さまのお導きで、
まためぐり合えることを祈る。(うーん、フクザツ。)

10センチの空
10センチの空

posted with amazlet on 07.01.30
浅暮 三文
徳間書店
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やっぱりこの5冊で言ったら、これが一番好きだよ。うん。

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