「驚異」の続編が「王妃」だと思っていた。実際に読んだらそれは違った。
続編というより「驚異」と「王妃」は表裏一体。どちらか一作しか読まないのでは片手落ち。
特に「王妃」だけ読むのは全く意味がない。ついでに言えば、「王妃」から読んだ人は間違いなく不幸。
どういうことかというと、「王妃」の大詰めで、この二冊の様相が思い切り転回するから。
……この転回の仕方は見事だとは思うし、さくっと斬られる快感もあるにはあるんだけど……
好きか嫌いかって言われるとちょっと。わたしは残念ながらがっかりした。
それまで“なかなかだ”と思って読み進んでいただけに。
ネタバレになるので、言わん方が親切だとは思うが……
「王妃」の大詰め部分で、ずっぱりメタフィクションになってしまうのだ、この二冊。
その部分で「そう来たか!」的面白さはたしかに感じた。しかしわたしはこの系統がどうも嫌いで。
メタになった途端、白けてしまった。それだったら、月並みも月並みだが「前世」で処理した方が好みだったなあ。
想像力・創造力というのは、人間の最上の美質だろうとわたしは思っている。
広がるものならば、どこまでも想像の世界が広がればいいと願う。その架空世界が広がれば広がるだけ、
厚みを増すなら増すだけ、わたしにとっては“善いもの”になる。
作られた世界の確かな手触りを感じることが、読むことの楽しみ(の少なくとも重要な一つ)である。
だが、これがメタとして作品世界に繋がれてしまうとね。
「世界が閉じた」と感じて、非常に卑小なものに思えてしまう。
始めと終わりが見える世界は、どこまでも広がることは出来ない。わたしとしては、
宙に浮かぶリングを(そのリング自体の大きさや美しさはあるとしても)味気なく見守るだけだ。
「驚異」にしても「王妃」にしても、細工は精緻でなかなか良かったので、
それがリングだと知った時はちょっと信じられなかった。読み間違えたか、と思わず読み返してしまったほど。
でもやっぱり、ただのメタらしい。そうなると、わたしのようなメタ嫌いにとって、
この本の価値は半減しますわな。肩透かしを食わされたような気分。
「驚異」の方だけ読めば、特に不満はないのだが。
18世紀フランスが舞台。じっくり描きこまれた架空世界は、時代考証から離れた処で
(幻想風味なので考証については考えないという意味で)楽しめる。
こちらだけ読んで「王妃」を読まないという選択もありかなあ。
まあでもそれは邪道だろう。作者はこの二つで一つの物語になるように書いているんだから。
どちらも読まないと、作者が書きたかったものの3分の1しかわからない。
しかし残りの3分の2を読んでしまうと、「驚異」の価値は3分の1になる。
なんだ、結局3分の1か。それなら「王妃」を読まずにおいた方がお得かな。時間的にも、読後感的にも。
でもまあ、これは好き好き。一概には言えない。
メタになるまでは、「王妃」の方も面白かったからなあ。二つの作品の関わりあい方が
新鮮で、面白く作っていると思っていた。前作にべったり寄りかからず。
何しろこの大時代的なタイトルと、前作を踏襲した装丁に関わらず、21世紀の話である。
読み始めて「現代ものかい?」と思い切り予想を裏切られる。これはいい意味の意外性。
図書館の話だし、幻想風味も健在で(この辺は前作そのまま)、好みの作品世界だったのだが。
作者は狙い通り「やった!」と思っただろうな。わたしも、メタになる直前の、とある4文字で
「う」と呻いたもの。そっかー、こうだったか。なるほどねー。何で気づかなかったんだろう。
だがそれがああいう終わり方をするとなー。上手くまとまっているだけに、作者のしたり顔を
感じてしまうというか。
まあ、色々言っても仕方がない。メタ好きにお薦めの本。嫌いな人は「驚異」で止めておくか、
最後でがっかりすること前提に読むこと推奨。
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