ここのところずっと、「なんだこれは!」とか「うーん、いいんだけどここがちょっと……」とか
どーも文句をつけたくなる本ばかりにあたっていたので、この本のほのぼのに思わずほっとした。
いいですよね。たまにはこういうのも。
あらすじ的にはとてもありがちな話なのである。多分似たような話は相当ある。
でもこの本で「いいな」と思ったのは、キャラクター。
主要登場人物がみんな……一言で言っちゃえば、いい人。しかも立派な「いい人」じゃなくて、
実にささやかな、小市民的な、いい人。かっこよくもない、多分尊敬もされない、でもいい人。
多少話が飛躍するが……まだ、信じたいんですよね。こんな人たちもいるって。
昨今、世の中はオカシイ。虐待、苛め、通り魔、詐欺……最近は自殺も増えているし。
ニュースを見るたびに思いますよ。なんて殺伐とした世の中だろうって。
そんな中、この本のキャラクターは、「いい人」で……いじらしい。
ひき逃げされて死んでしまった大学生も、殺人的な忙しさで働く某大手ハンバーガーチェーンの
平社員も、報われること少ないのに一所懸命なアルバイトも。
この作品世界は等身大の現実だから、余計強く思う。
「こんな風にみんな生きてるんだよね」
作品の登場人物ばかりではなく、自分も、自分の知人たちも含めて、みんなにあててそう呟きたくなる。
まあ、死人である大学生については、死人にしては少々軽すぎ、
もう少しコダワリとかウラミとかがあるのが妥当のような気もするけど……
でも話全体が、この死人のキャラクターにかかっているので、ここは変更不可だな。
死人と平社員の会話なんかも、ものすごく普通だったけれど、その普通がなつかしい。
昔、こんな風にだらだらと喋っていたような気がする。わたしも。仲間たちと。
あ、あと興味深かったのは「某大手ハンバーガーチェーン」の舞台裏。
いや、全然暴露的内容ではないけど、わたしもついこの間、土曜日昼の郊外型ドライブスルーを
利用して、大変だなーと思ったばかりだったから。
けっこう詳しく書いているので、これは作者の経験だろう。マク○ドナルドでバイトしたことが
あったに違いない、作者は。
小さな小さな話であることは間違いがない。
でも、たまには読みたい、こんな話も。後味が優しい。
甘ささわやかなマスカット・キャンディ一個。そんな感じの本。
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