PR

◇ 中村弦「クロノスの飛翔」

中村弦3作目。そしておそらく最後の作品。
この後多分書いてないんだよね。うーん、そうかあ……。
本人が書かないと決めたのか、依頼する人がいなかったのかわからないが、
わたしとしては少々惜しいけどなあ。

前二作がふわりとしたファンタジーだし、このタイトルだったので、
同じようなものを予想して疑いもしなかったのだが、今回はだいぶ毛色が違いました。
何しろ戦争のシーンから始まりますからね。
それも泥臭く、いや~な感じ一方の戦争。非人間的な上長とか。

で、戦争に出ていた主人公が戻ってきて、戦後の生活の中でようやく平和な生活が
始まるのかと思いきや、なかなかいつもの中村弦にならない。
もしかしてずっとこの暗めのトーンでいくのか?珍しー。

結局のところ、最後は後味いいし、ファンタジーでもあるということで
通常営業と言えないこともないが、いつもの中村弦よりもだいぶ暗めでした。
まあわたしにとっては暗め。普通の人が読んでツライと感じるレベルではない気がする。

伝書鳩の話なんですよね。戦争中に伝書鳩係をやっていた主人公が、
戦後は新聞社に入って記者をやっているんだが、新聞社で飼っている伝書鳩に
数奇な縁を感じて……というところから始まる。

鳩が可愛かったです。健気で。鳩視点の部分もほんのちょっとあり、
もちろん鳩が何を考えているかなんてのは想像でしかないわけだが。
この人の主人公は誠実でいい人だから、共感が出来やすくて好き。

だが、正直言って終盤になるに従って少々ストーリーは無理になる。
いや、無理というほどではないか。作者は納得感にかなりこだわる人で、
こういう結果になるからここで描写や設定を作っているんだなあというのがよくわかる。
こういう部分、いいと思う。納得できる。

この人の作品は、地味は地味だったが。でも丁寧に書いてあって好感は持てたね。
ものすごく好きかというとそこまでではないが。
丁寧に書くから準備に時間がかかるタイプだろう。
まあなあ。何年かに1冊のペースだと本業は止められないだろうし。
本業が忙しくなったらその他に本を書くのは大変だろうしなあ。
3冊。楽しませてもらった。ごきげんよう。

コメント